環境に配慮した建築を数多く設計してきた中村勉総合計画事務所(東京都文京区)が近年力を入れるのは、オフグリッドの状態で住み続けられる住宅だ。高い断熱性能を備え、再生可能エネルギーを有効活用する。
冷暖房負荷などのエネルギー消費量を極力抑えることで、災害時でも再生可能エネルギーを活用して普段通りの室内環境を維持できる──。
中村勉総合計画事務所では2011年の東日本大震災以降、こうした住宅をローコストで実現する一般社団法人「木創研」を立ち上げ、普及活動を進めている。
木創研の家の12棟目となる「スマートOFF-GRID HOUSE」は、オフグリッド対応のプロトタイプだ〔写真1〕。18年4月に千葉県木更津市で完成した。電力系統(送電線)につながなくても住み続けられるよう、太陽光発電パネルと蓄電池などを搭載する。スマートソーラー(東京都中央区)の実験住宅で、こうした設備はいずれも同社の製品だ。
木創研の家の最大の特徴は、幅広の大開口部を設けながら、高い断熱性能を備えることだ。スマートOFF-GRID HOUSEでは、幅が9.3mという大開口を設けながら、UA値(外皮平均熱貫流率)は0.42W/m2Kを達成した。ZEH+(ゼッチプラス)に適合する断熱性能だ。
このUA値の確保に欠かせないのが、大開口部に用いる「クワトロサッシ」。中村勉代表とキマド(富山市)が開発し、14年に完成した4重ガラス入りの木製サッシで、0.51W/m2Kという熱貫流率を備える。
大開口部まわりにはパッシブ設計の工夫が満載だ〔図1〕。夏の日射が室内に差し込んで室温を上昇させないように、900mm以上の軒と600mm以上のけらばを設ける。大開口部に面する床を大理石で仕上げることで蓄熱材に用いる。冬は日射熱を蓄えて暖房負荷を軽減し、夏はひんやりとした冷感を提供する。
床下には、冷暖房負荷を下げるための換気と空調方法を導入する。換気用の新鮮外気の給気は、床下に配管したフレキシブルダクトで室温に近づけてから取り入れる。
空調は、ハウジングエアコンの吹き出し空気を床下経由で室内に送って、家全体の温度と湿度を調節する仕組みだ〔写真2〕。
スマートOFF-GRID HOUSEは太陽光発電パネルが発電可能な天気であれば、オフグリッドの状態でも不自由なく電気を終日使用できる。それを可能にしているのは、家中のコンセントと家電製品などに電気を送れる全負荷型のリチウムイオン蓄電池だ〔写真3〕。
蓄電容量が11.8kWh、初期実効容量(実際に使用可能な容量)が10.9kWhなので、4人家族の平均的な1日の消費電力量といわれる約10kWhを賄える。