木材が足りず、工事をストップさせてほしい──。輸入材価格は半年で1.5倍になり、つられて国産材も急騰。木材の需給逼迫による「ウッドショック」に、住宅業界が悲鳴を上げている。渦中の現場を追った。
神奈川県逗子市で戸建て住宅を建設中の30代夫婦に、メッセージングアプリ「LINE」で工務店から1通の不穏な知らせが届いた。2021年4月8日のことだった。
「電話で話せる時間はありますか? 木材の流通で異常な事態が発生しています。説明させてください」
夫婦はすぐに電話した。すると工務店の社長は「木材がすぐには手に入らない可能性が高く、工事が一時中断する恐れがある。値上げをお願いする可能性もある」と伝えてきた。
取引先のプレカット会社から工務店に連絡が入ったのは4月頭。輸入材が高騰しており、平時と比較して5月納品分は1万5000円/m3、7月納品分は同3万円の値上げとなる。国産材も逼迫し、お宅の木材が届くのはいつになるか分からない──。
工事の段取りが順調に進んでいると思っていた夫婦は、突然の知らせに面食らった。そして、知ることになる。木材の需給が逼迫して価格が高騰する「ウッドショック」が住宅業界を急襲していること。自分たちも、それに巻き込まれてしまったことを。
夫婦が都内から逗子の賃貸マンションに引っ越したのは20年1月。その後、新型コロナウイルスの感染者が増加し、夫婦の勤め先でテレワークが中心となった影響もあって、逗子での住宅購入を検討し始めた。
土地の取得は同年8月。国産材を使った在来軸組み工法を得意とする中尾建築工房(神奈川県横須賀市)に設計・施工を依頼した〔写真1〕。
21年3月までに設計を終え、着工したばかり。そこで、木材不足に襲われた。中尾建築工房の中尾博志社長は「プレカット会社と15年以上の付き合いだが、値上げの経験はほとんどない。これは異常事態だと思い、建て主全員に連絡をした」と振り返る。
夫婦が注文した住宅は床面積約120m2で、27~28m3の木材を使用する。梁に使うベイマツを除き、全てが国産材だ。値上げ通知を基に計算すると、数十万円の増額となる。
「逗子では湿気が多いことを見越して材料を選定している。手に入りやすい材料にすぐに変更するのは難しい」と中尾社長。キッチンの仕入れ値をほぼそのまま見積価格とするなど減額を試みており、企業努力は既に限界。協議のうえ、木材価格の上昇分を住宅価格に転嫁することで夫婦と合意した。「これまで無理を言って減額してもらっているし、転嫁は致し方ない」と夫婦は諦め顔。銀行からの借り入れは既に済んでおり、数十万円の上昇分はキャッシュで支払う予定だ。