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いち早く米国スタジアムに学び、選手のためという以上に、「客目線」を徹底。行政による支援の下、公設の建物ながら運営に合わせた改変を柔軟に続けている。スタジアムの代表事例として必ず名前が挙がるのはなぜか。

 スポーツ施設を核に都市開発を進める代表的な自治体が、広島市だ。2021年3月には待望されていたサッカースタジアム整備事業の優先交渉権者を決めた(次の記事を参照)。新たな大規模プロジェクトに市と県、地元経済界などが一丸となり得るのは、09年開業の市民球場「MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島」の成功体験があるからだ〔写真1〕。

〔写真1〕テラス席の新タイプも各所に
〔写真1〕テラス席の新タイプも各所に
20年に新設したパノラマテラス越しにフィールド側を見る。左下方のスコアボードとの間にあるのは、人気のあるバーべキューを楽しめる席を15年に増設した「ちょっとびっくりテラス」(写真:生田 将人)
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 定員は3万3000人。100万人規模の都市にある施設として、無理をし過ぎない収容人数に設定した。

 本スタジアムには、ハード面に2つの大きな特徴がある。いずれも、既に00年代には米国でスタンダードだった考え方を採用したものだ。しかし、国内に類例はなく、関係者も成功を確信できていたわけではなかった。

 まず1つ、途切れずにつながるループ状のコンコースを設けた。なおかつ、街側にもフィールド側にも開かれた格好とした。観客は幅8mから12mの「大通り」を自由に回遊できる(下の囲み参照)。

 「全周コンコースは、天然芝と合わせて松田オーナー(松田元・広島東洋カープ社長)が譲らなかった要素だ」と、市の新球場建設部で整備事業を担当した萬ヶ原伸二氏(現・都市整備局営繕部長)は振り返る。

 全周つながるコンコース 
段差なしで全長600mの開放的な回遊動線
スタンド側断面図
スタンド側断面図
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 A  メインコンコース(同レベル)

内野側で幅12m、外野側で幅8m。「あそこに行けば知り合いに会えると言われた中心市街地の本通商店街と同程度の広さが欲しかった」と広島東洋カープの山口氏は語る。年間80日前後、散策路として開放してきた(写真:生田 将人)
内野側で幅12m、外野側で幅8m。「あそこに行けば知り合いに会えると言われた中心市街地の本通商店街と同程度の広さが欲しかった」と広島東洋カープの山口氏は語る。年間80日前後、散策路として開放してきた(写真:生田 将人)
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(写真:生田 将人)
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(写真:生田 将人)
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(写真:生田 将人)
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 B  プレキャストの活用で乗り切る

当初のプロポーザルの頓挫などで遠回りした後、規模と比較して短工期(約17カ月)の条件の入札が実施された。「尻込みする声もあるのを聞き、むしろ奮起して臨んだ」と、当時は五洋建設広島支店の建築部長だった渡部浩氏(現・取締役専務執行役員)は語る。上部架構のプレキャストコンクリート部材製作のために、全国9カ所の工場を動員した(写真:日経アーキテクチュア)
当初のプロポーザルの頓挫などで遠回りした後、規模と比較して短工期(約17カ月)の条件の入札が実施された。「尻込みする声もあるのを聞き、むしろ奮起して臨んだ」と、当時は五洋建設広島支店の建築部長だった渡部浩氏(現・取締役専務執行役員)は語る。上部架構のプレキャストコンクリート部材製作のために、全国9カ所の工場を動員した(写真:日経アーキテクチュア)
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 C  視界に邪魔が入らない客席構成に

観客の視線に対して障害となる横通路を極力排除するため、本スタジアムでは観客席の通路は縦方向のみとした。1階席最後部のメインコンコースを非常口とみなし、直結させている。「38条認定を使えない時期だったため、独自に避難計算を行って消防側と協議するなど苦心した。縦通路の幅員を規定より大きくするなど、条件をクリアした」(萬ヶ原氏)(写真:生田 将人)
観客の視線に対して障害となる横通路を極力排除するため、本スタジアムでは観客席の通路は縦方向のみとした。1階席最後部のメインコンコースを非常口とみなし、直結させている。「38条認定を使えない時期だったため、独自に避難計算を行って消防側と協議するなど苦心した。縦通路の幅員を規定より大きくするなど、条件をクリアした」(萬ヶ原氏)(写真:生田 将人)
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 D  ゲートをまたぐブリッジも客席に

開かれたスタジアムを象徴する箇所として、JR広島駅前から始まる「カープロード」と球場の接点となるメインゲートがある。上空をつなぐブリッジは、仙田氏の発案でつくられた。無駄な通路ではないかという指摘が上がる中で、松田オーナーが「高く売れる場所になる」と喜び、ブリッジ上にもグループ席を並べるに至った(ゲート部分の写真のみ開業時)(写真:生田 将人)
開かれたスタジアムを象徴する箇所として、JR広島駅前から始まる「カープロード」と球場の接点となるメインゲートがある。上空をつなぐブリッジは、仙田氏の発案でつくられた。無駄な通路ではないかという指摘が上がる中で、松田オーナーが「高く売れる場所になる」と喜び、ブリッジ上にもグループ席を並べるに至った(ゲート部分の写真のみ開業時)(写真:生田 将人)
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MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島(マツダスタジアム)

  • 所在地:広島市南区南蟹屋
  • 運営者:広島東洋カープ(指定管理者)
  • 収容人員:3万3000人
  • 延べ面積:3万9524.01m2
  • 発注者:広島市
  • 設計者:仙田満+環境デザイン研究所
  • 施工者:五洋建設・増岡組・鴻治組JV
  • 設計期間:2006年10月~07年7月
  • 施工期間:2007年11月~09年3月
  • 開業日:2009年4月10日
  • 総工費:約90億円