東京五輪・パラリンピックの開催を機に、日本のトイレの常識が変わろうとしている。著名な建築家やデザイナーが公共トイレのアイデアを提案する「THE TOKYO TOILET」が東京都渋谷区では進行中だ。日本が世界に誇る「おもてなし」文化を公共トイレで表現する。「世界最高のユニバーサルデザイン」を掲げた国立競技場をはじめとする五輪関連施設では、障害者団体の意見に耳を傾けバリアフリーに対応した。いくつかの施設で共通しているのが、多機能トイレへの機能集中を改め、個別機能を備えた便房を分散配置したことだ。ここでの成果は、2021年3月に国土交通省が改正した建築設計標準に反映されている。東京五輪をきっかけに議論が深まった、トイレの新常識をリポートする。

トイレ設計の新常識
東京五輪のレガシーに、バリアフリー対応が変わる
目次
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「森の集落」や「キノコ」が出現 渋谷から公共トイレが変わる
THE TOKYO TOILET
建築家やデザイナーが公共トイレを東京都渋谷区に設置するプロジェクトが進行中だ。隈研吾氏が「森の集落」、伊東豊雄氏が「3本のキノコ」の形をした施設をデザインした。渋谷から日本のトイレが変わろうとしている。
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用はなくても入りたくなる ホテルのような内装の公衆トイレ
千駄ケ谷駅前公衆トイレ
東京都渋谷区では日本財団の取り組みとは別に、建築家の谷尻誠氏が設計した公衆トイレも注目だ。アートのような外観にホテルのような内装、男女共用の入り口など、公衆トイレのイメージを覆す試みだ。
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全てのフロアに車椅子用を配置 1階は一般用との配分に悩む
国立競技場 大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所JV
「世界最高のユニバーサルデザインを目指す」。国立競技場の設計に当たり、日本スポーツ振興センターが業務要求水準書で掲げた目標だ。要求数以上の車椅子用トイレを設け、細部に利用者の声を反映させた。
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「多機能」から「機能分散」へ ワークショップで設計変更
有明アリーナ 東京都(発注)、久米設計(基本設計)、竹中工務店(実施設計)
東京五輪・パラリンピックに向けて新設された有明アリーナ(東京都江東区)では、従来の多機能トイレではなく、機能を分散させた5種類のトイレが配置された。そのきっかけとなったのは、「使う側」の声だった。
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パラスポーツの専用施設は 車椅子対応トイレが基本
日本財団パラアリーナ(東京都品川区)は、パラリンピック競技の普及と練習環境の提供を目的とした施設だ。様々なハンディキャップを持つ人たちがストレスなく利用できるように、トイレについても細かい配慮が施されている。
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利用調査で多目的ニーズを把握 清掃員の負担を減らす納まりも
成田国際空港 設計事務所ゴンドラ(第2旅客ターミナルビルの一部)、空間デザイン(第1旅客ターミナルビル他)
成田国際空港は、東京五輪開催決定をきっかけに進めてきた大掛かりなトイレの改修工事を、2020年3月に終えた。空港利用者、清掃員、障害者などから聞き取ったニーズに、コンペで選ばれた設計者が応えた。
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慎重さが必要な機能分散とトランスジェンダー配慮
小林 純子氏 設計事務所ゴンドラ代表
トイレを誰にとっても快適で使いやすい場所に変える設計に長年取り組んできた小林純子氏。同氏には、大事にしている4つのテーマがある。トランスジェンダーへの配慮という、新たな課題への考え方も聞いた。
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プラン立案や自動設計ツールも トイレメーカーの最新支援策
公共トイレに求められる機能は複雑化している。発注者の要求に加えて社会的な要請を踏まえた設計が必要になる。多くの要素を組み込むためにトイレメーカーの設計支援を利用することも1つの解決策だ。
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「自分に合う個室が選べる」 ジェンダー超えたオルタナティブ・トイレ
永山 祐子氏 永山祐子建築設計主宰
男女別、障害者用という枠組みを超え、誰もが自分に合う個室を選べる「オルタナティブ・トイレ」。新しいトイレの提案として2020年度のグッドデザイン賞を受賞した。設計者の永山祐子氏に計画のポイントを聞いた。
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誰もが使いやすいトイレへ 利用者ニーズの把握が重要に
東京五輪の関連施設では、設計段階で障害者の意見を聞くワークショップが積極的に開催された。その結果、様々な問題が明らかになり、解決策が提示された。その成果は、国の設計標準にも盛り込まれている。