「世界最高のユニバーサルデザインを目指す」。国立競技場の設計に当たり、日本スポーツ振興センターが業務要求水準書で掲げた目標だ。要求数以上の車椅子用トイレを設け、細部に利用者の声を反映させた。
国立競技場のトイレ設計をはじめとするユニバーサルデザイン対応は、JVチームの梓設計(東京都大田区)が中心になって手掛けた。
トイレで注目したいのは、車椅子利用者など様々な利用者を想定した「アクセシブルトイレ」。地下2階から地上5階まで全フロアに計93個設けている〔写真1〕。この設置数は、日本スポーツ振興センター(JSC)が設定した、車椅子席15席に1カ所以上という要求水準を、エリアごとに満たしている〔図1〕。さらに、国際パラリンピック委員会(IPC)が作成した「アクセシビリティガイド」(IPCガイド)に記されている、アクセシブルトイレの設置基準にも適合する。IPCガイドとは、IPCがパラリンピック大会開催地に求める建築環境基準だ。
設計で難題だったのは、利用者が集中する1階のトイレ配置だ。国立競技場では観客席数などを増やす都合で、1階でトイレに割り当てられる面積が限られていた。そのため、プロポーザルで選ばれた当初設計案では1階のトイレがアクセシブルトイレだけになり、一般用トイレを地下1階に設けていた。
有識者らはこの配置について、「1階のトイレでも車椅子を使用しない足の不自由な高齢者などへの配慮が必要」などと見直しを要望。基本設計で一般用トイレの一部を1階に移す変更が行われた〔図2〕。
もともと地下1階には、業務要求水準書の数値を上回る数の一般用トイレが設置されていた。ただ、1階に移動できる一般用トイレの割合は2~3割にとどまった。そのため、2019年12月に開催された国立競技場のオープニングイベントでは1階の一般用トイレに行列ができ、「数が足りない」といった声が上がった。
地下1階に一般用トイレがあることは、誘導サインで大きく表示していた〔写真2〕。しかし、1階に一般用トイレ待ちの行列ができたことで、地下1階のトイレの存在が気付かれにくくなった可能性がある。