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トイレを誰にとっても快適で使いやすい場所に変える設計に長年取り組んできた小林純子氏。同氏には、大事にしている4つのテーマがある。トランスジェンダーへの配慮という、新たな課題への考え方も聞いた。

小林純子氏。日本女子大学住居学科卒業、田中・西野設計事務所などを経て、1989年に設計事務所ゴンドラを設立。工学博士。2020年から日本トイレ協会会長(写真:日経アーキテクチュア)
小林純子氏。日本女子大学住居学科卒業、田中・西野設計事務所などを経て、1989年に設計事務所ゴンドラを設立。工学博士。2020年から日本トイレ協会会長(写真:日経アーキテクチュア)

 私がトイレ設計で大事にしている1つ目は、誰もが使いやすいこと。「ユニバーサルデザイン」〔図1〕だ。トイレの使い方は年齢、性別、障害、その時の状況(大きな荷物、体調不良など)によって多種多様だ。

〔図1〕誰もが使いやすい、清潔、安全、居心地の良さを重視
〔図1〕誰もが使いやすい、清潔、安全、居心地の良さを重視
小林純子氏がトイレ設計で重視している4つのテーマを図に示した(資料:日経アーキテクチュア)
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 私どもが改修設計を手掛けて2017年12月に利用開始した小田急電鉄新宿駅西口地下改札内のトイレ(小田急新宿駅トイレ)では、面積を改修前の2倍に広げ、便房の種類と数を増やして多様なニーズに対応した。車椅子利用者の右勝手用と左勝手用トイレ、子どもトイレ、ベビーカーごと入れる大きめの便房、授乳室などを用意した〔図2写真1〕。

〔図2〕一般トイレ内に機能を分散
〔図2〕一般トイレ内に機能を分散
トイレの配置図。一般トイレ内にベビーカーごと入れる大きめの便房やベビーチェア付きの便房などを配置して、機能を分散した。このトイレは国際ユニヴァーサルデザイン協議会の国際デザイン賞2020で金賞を受賞した(資料:設計事務所ゴンドラ)
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〔写真1〕子どもが楽しくなるトイレ
〔写真1〕子どもが楽しくなるトイレ
小田急新宿駅トイレでは円形の子ども用トイレを用意して、幼児が楽しく安心して利用できるようにした。見守り用の小窓が付いている(写真:日経アーキテクチュア)
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 21年に「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」が改正され、多機能トイレに集中していた機能を分散する方針が出された 「誰もが使いやすいトイレへ 利用者ニーズの把握が重要に」参照 。広い個室を必要とする車椅子利用者のトイレ待ちが起きていることが理由だ。それは解消したいが、果たしてそれだけでよいのか少し不安になった。

 私は長年公共トイレの設計に携わり、様々な現場に遭遇してきた。ハートビル法ができて20余年。それ以前の建築の多くはトイレの面積そのものが狭い。一方で一般便房数も多く必要で、そこにおむつ交換台などの機能を配置すると滞在時間も長くなる。設計者としては、誰一人トイレ待ちをさせたくない。兼用のほうが利用者の多様な機能を切り捨てなくて済むのも事実だ。

 機能分散による多様性の実現にはトイレ全体の面積拡大が必要だ。そして、設計当初から必要便器数を決め、多様化による便房増加も想定する。改修などで1フロアでの多様化が難しい場合は全フロアでの実現を図り、利用者の求めるトイレの位置をサインで明確に示すことが重要だ。

 大事にしている2つ目は、清潔さの持続だ。それには、トイレの産みの親である設計者と育ての親である清掃員の連携が欠かせない。私どもは清掃員へのヒアリングを設計段階で必ず行い、困りごとを踏まえてディテールを決める。例えば小田急新宿駅トイレでは、床を水洗いするので排水口を個室内などに設けた。タイルには目地汚れを抑えるはっ水性塗装を施した〔写真2〕。

〔写真2〕タイルに目地汚れ防止を施す
〔写真2〕タイルに目地汚れ防止を施す
小田急新宿駅トイレの便房内。居心地をよくするため、華やかで意匠的なタイルを張った。はっ水性のある塗装を目地に施すことで、タイルの目地汚れを防ぎ、掃除を容易にしている(写真:吉見 謙次郎/スタジオバウハウス)
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 設計者にとって、清掃員はトイレの先生だ。よかれと思って設計したことが、清掃上では大きなあだにもなる。引き渡し後も維持管理について両者が情報交換することが、清潔さの持続と設計の向上につながる。その仕組みをどうつくり出すかが、私の今後の大きな課題だ。