マンションなどの外壁タイルが剥離し、落下するトラブルが多発している。管理組合が施工会社や設計事務所に修繕費の負担を求めて訴訟になるケースも。施工不良か経年劣化か、紛争の現場で注目を集めているのが「浮き率」だ。改正マンション管理適正化法の全面施行を2022年4月に控え、外壁タイルの品質に向けられる視線がさらに厳しくなることが予想される。紛争の現場から見えてくる問題点を解説すると共に、デジタル技術を活用した業務効率化など、タイル剥落対策の最前線を追った。

外壁タイルの落下を防げ
紛争防止へ変わる剥落対策
目次
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経年劣化か施工不良か 費用負担巡り紛争に発展
外壁タイルの浮き・剥落を巡る紛争が後を絶たない。紛争の場面で度々登場するのが、浮いた面積の割合を示した「浮き率」だ。浮き率を根拠に、新築時の施工会社が補修費用の負担を迫られるケースが増えている。
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「浮き率」で施工不良を推認 重くなるタイル剥離の法的責任
外壁タイルの紛争で注目を集める「浮き率」。瑕疵(かし)を巡る訴訟では、浮き率を根拠に施工不良を推認する判決が出ていた。和解の現場では、管理組合と建築事業者の費用負担を決める際に浮き率が使われている。
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タイルの施工不良 不法行為責任は最長20年
外壁タイルに関する、契約上の不適合を問われる期間は引き渡しから一般的に2年だ。ところが訴訟では重過失が認定されると10年、さらに不法行為責任が認定されると最長20年まで追及される。
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目荒らしは導入が進む 接着剤張りは対応分かれる
外壁タイルの浮き・剥落防止策の普及状況はどうなっているのか。その手掛かりを知るため、日経アーキテクチュアは分譲マンションを多く手掛ける発注者や設計者、施工者などにアンケートを依頼。デベロッパー4社、設計事務所2社、ゼネコン5社、タイルメーカー1社から回答を得た。
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直張りの施工不良8タイプ 複数要因が重なると被害拡大
外壁タイルで多く採用されているのは、張り付けモルタルによる直張りだ。剥離事例が多いとも言われる。外壁タイルに詳しい学識者と経験豊富な調査会社に取材し、直張りで剥離を招く施工原因をまとめた。
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ドローンとAIで調査を効率化 足場の設置を最小に抑える
ドローンで赤外線画像を撮影して人工知能(AI)で浮きを自動判定する技術で、外壁調査の効率化を図るのは竹中工務店だ。ゴンドラで打診を行う技術と組み合わせて、補修箇所を絞り込み、足場設置の最小化に取り組む。
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ベテランが「HoloLens 2」装着 打診棒とMRを使い単独検査
長谷工コーポレーションは現場の検査担当者向けに、MR(複合現実)ヘッドマウントディスプレーを配備した。片手に打診棒を持ちながら、もう片方で仮想画面を操作。検査結果はそのまま、MRアプリに記録される。
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3Dスキャナーで下地の不陸測定 定期報告の全面打診代替に活用
有機系接着剤張り工法では、10年ごとの定期報告の際、全面打診を他の方法で代替できる。その条件として、新築時の施工記録を求める。東急建設は、3Dスキャナーを使った新技術で、施工記録の作成を支援する。
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図面と違う施工に注意 3段階の打音を現地で共有
建築検査学研究所(神奈川県大和市)の代表、大場喜和氏は、数十年にわたって建物調査に携わってきた。特に外壁タイルについては、赤外線やドローンの活用に取り組む先駆者だ。大場氏は、自身が考える打診検査の手法をまとめている。
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「のり・くぎ併用が基本」 独自の剥落防止工法を標準に
「タイル剥落防止は、のり・くぎ併用が基本」という大林組。モルタルによる界面接着だけに頼らず、万一浮きが生じても落下させない“くぎ”のような仕掛けを併用する。同社が独自に開発してきた剥落防止工法を紹介する。
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見積時に接着剤張りを提案 いくら増額になるかを明示
有機系接着剤張りは、剥落のリスクが低い工法として評価されている。一方でコスト増などの理由から採用率は低い。2004年から接着剤張りを手掛ける北野建設に同工法の評価や採用を促す方法について聞いた。
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接着剤張りに品質保証 定期報告時の利点を訴求
タイル関連の業界団体は、有機系接着剤張り工法の普及に力を入れる。全国タイル工業組合が運営する品質認定制度「Q-CAT」は10年で利用が4倍になった。全国タイル業協会は、定期報告時のメリットを訴求する。
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タイルをネットとピンで全面固定 既存の仕上げを生かす工法も
既存建物を生かすストック活用の時代を迎え、タイルの落下防止への関心が高まっている。部分的に補修する方法に加え、建物全面に対策を施す外壁複合改修工法がある。その代表的な工法を解説する。