長年の間に大小様々な校舎が増改築されていったキャンパスをどう再編すればいいか。その解答となるのが日本女子大学の例だ。近代建築の名作を使い続ける選択肢もある。
学部学科を1つのキャンパスに統合するのに合わせて整備した。キャンパスは2本の大通りで分かれているが、新しい建物がキャンパスの「顔」となり連続感を生む。そのなかに学生の滞在場所を複数つくった。
日本女子大学は創立120周年を迎えた2021年4月、人間社会学部を西生田キャンパス(川崎市)から目白キャンパス(東京都文京区)に移転し、4学部15学科と大学院を創立の地に統合した。これにより、目白キャンパスの学生数は、以前の1.5倍に当たる約6000人に増えた。
総合大学として文理融合の学修環境を整えるため、同大学は11年に学部統合を決定し、目白キャンパスの構想部会を立ち上げた。そして、卒業生の妹島和世氏(妹島和世建築設計事務所代表)にグランドデザインと、新しい図書館、教室・研究室棟、学生棟の設計を依頼。14年にグランドデザインを発表した。
図書館を幼稚園地区に移す
図書館は学生滞在スペース「青蘭(せいらん)館」とともに、統合に先駆けて19年4月に開館した〔写真1~5〕。建物の周囲にスロープを巡らせており、5層のフロアが連続する。スロープがあることで、利用者はどこにいても2層分の空間を目にする。そうして建物全体を感じながら、目的や好みに合わせて自分の居場所を選べるように、大小明暗様々な場所がある。
スロープは、敷地の奥が手前より約2m低く、奥に付属幼稚園が立つことから設けた。「図書館のエントランス部分から奥に向かうスロープの勾配は20分の1。それと同じ勾配のスロープを建物の中に連続させた」。妹島和世建築設計事務所の棚瀬純孝氏はこう話す。スロープが庇となり、書架への日射を遮る意図もある。
図書館が立つのは目白通りの南側、以前は「幼稚園地区」と呼ばれていた敷地だ。目白キャンパスは泉山(せんざん)地区を中心に、目白通り南側の幼稚園地区と小学校地区、不忍(しのばず)通り北側の体育館地区に分かれる。
泉山地区に教室・研究室棟を新築するには、どれかの建物を幼稚園地区に移す必要があった。議論の末、老朽化した図書館とその裏にあった第2体育館を移すことが決まり、その後、新図書館を計画中に、第2体育館は体育館地区に整備することが決まった(「[キャンパス再編のアウトライン]ボールト屋根を架けてまとまり感」参照)。篠原聡子学長は、「通りに面して大学が社会や地域との接点をつくれる。図書館は社会や地域に開くことのできる可能性が最も高い」と話す。