築20年の豊田スタジアムで、可動屋根を固定化するという前代未聞の工事が進む。自己矛盾ともいえる改修は、運用コストを縮減するためのもの。金食い虫の“ハコモノ”にしまいと、豊田市は苦渋の決断を下した。
角のように飛び出した高さ96mのメインマストに、キールアーチ形状の屋根──。黒川紀章(1934~2007年)が手掛けた特徴的な外観を持つ巨大スタジアムは、悩ましい問題を抱えていた。売りの1つである可動屋根がほとんど使われていないという事実である〔写真1〕。
可動屋根は閉じた状態だと長さ223m、幅92mになる。14本の鉄骨梁と塩化ビニール系の膜から成り、蛇腹状に折り畳まれた膜を伸縮する特殊な機構を持つ。
国内唯一のシステムで、建設に関わった関係者の1人は「一品生産の巨大な装置のようなもの。高いし扱いにくい」と揶揄(やゆ)する。
スタジアムを保有する豊田市によれば、竣工した2001年から13年までの屋根開閉回数の合計は288回。そのうち点検など事務的な開閉を除いた本番運用は125回だった。年平均で10回程度の計算となる。ただし、後半の09年から13年の5年間に限ると、本番運用は21回。年平均で4回程度にとどまる。
可動屋根を設置した理由は、雨風をしのげる全天候型の施設とすることで、コンサートなどの使い勝手を向上させるため。様々なイベントを誘致して稼働率を上げるのが狙いだった。しかし、その目論見(もくろみ)は外れた。
1回の開閉で100万円
豊田市にとって誤算だったのは、07年に屋根の開閉機構が故障したこと。修理に10カ月を要した。市は安全を確保するため、故障をきっかけに開閉時の運用を見直した。ボタン1つでの開閉から、専門スタッフをスタジアム中に配置し、異常がないか確かめながら開閉することとした。この見直しで、開閉1回のコストがそれまでの8000円から、人件費が加算され100万円に跳ね上がった。
屋根の使用頻度が減った要因として考えられる点は2つある。1つは、天然芝への影響だ。屋根を閉めれば日当たりや風通しは当然悪くなる。すり鉢状のスタジアム形状も日照を遮りがちで芝には不向きだった。
竣工後、サッカーの試合などを通して、芝が剥げやすい状態であることが明らかになった。豊田市スポーツ戦略課の太田信人副課長は「設計時に、屋根の芝への影響をどの程度見込んでいたのか、記録がないので分からない」と説明する。端的にいえば、想定が甘かったということだ。
屋根の開閉はサッカーなどの使用者側に決定権があるが、豊田市はその都度、使用者に芝への影響度を説明し、相談しながら開閉を決める運用を余儀なくされた。
同スタジアムはJリーグに加盟する名古屋グランパスエイトの本拠地の1つ。雨が降っても屋根を開けたいと考える監督がいたことも、開閉回数を減らした。
もう1つは音響の問題だ。雨の日に屋根を閉めて運用したところ、コンサート関係者や観客から「音がこもる」という評価が相次いだ。
全天候型をうたったスタジアムだが、音響を考慮して雨でも屋根を開けたままコンサートを開催することもあったという。