全1650文字
PR

アイスリンクとウッドフロアによる“二毛作”を実現したフラット八戸。企画段階から日常利用を想定し、逆算して設計した。スポーツ施設では珍しい手法に、“ハコモノ”にしないためのヒントが詰まっている。

 10人程度の担当者が、アイスリンクの上に断熱パネルをテキパキと敷き詰め、さらにその上にウッドフロアを並べていく──。ものの数時間程度で、スケートを楽しんでいたリンクは、バスケットボールの試合会場へ変貌する〔写真1〕。

〔写真1〕アイスリンクがバスケ会場に早変わり
〔写真1〕アイスリンクがバスケ会場に早変わり
常設のアイスリンクを持つ「フラット八戸」の内観。八戸市の気候条件から、真夏でも空調を入れず氷中の冷媒管による冷却だけで氷を保てる(写真:村上 昭浩)
[画像のクリックで拡大表示]
ウッドフロアを敷いてバスケットボールの会場として利用している様子(写真:フラット八戸)
ウッドフロアを敷いてバスケットボールの会場として利用している様子(写真:フラット八戸)
[画像のクリックで拡大表示]

 2020年4月、JR八戸駅の程近くに完成した「フラット八戸」は、国内では初めての常設アイスリンクを持つ多目的アリーナだ。アジアリーグアイスホッケーに参加する東北フリーブレイズの本拠地である。

 八戸市が持つ土地区画整理事業エリアにアリーナを企画したのは、ゼビオグループのクロススポーツマーケティング(東京都千代田区)。整備は同社や金融機関などによる特別目的会社のXSM FLAT八戸が担った。

「競技」「観戦」に次ぐ第3の道

 事業企画の段階でクロススポーツマーケティングの中村考昭社長が考えたのは、スポーツ施設における「第3の道」だった。一般的に、第1の道は行政が整備・運営する「競技施設」、第2の道はスポーツ観戦に特化した「スポーツアリーナ」とすることが多い。中村社長がそれらに次ぐ第3の道として目指したのが、市民の日常使いを中心に据えた「地域共生型の多目的アリーナ」だった。

 氷都・八戸。地理学上、積雪が少ない割に気温が低下することから、八戸は古くからこう呼ばれてきた。池などが凍りやすく、明治時代からスケートが土着的なスポーツとして愛されてきた。アイスホッケーのチームは八戸市周辺で100を超え、小学校の体育ではスケートの授業が欠かせない。その割に、市民が自由に使えるリンクは少なかった。

 “舶来”ではなく、地元で愛されるスポーツこそ地域共生にふさわしい──。中村社長はこう考え、アイスリンクを核として企画を進めた〔図1〕。

〔図1〕観客席は最大で5000席
〔図1〕観客席は最大で5000席
フラット八戸のフロアマップ。2階建てで1階がアリーナ。2階の観客席の周りにあるコンコースはあえて余白を設けた。イベント時に飲食ブースを出すなど多様な活用ができる(資料:フラット八戸)
[画像のクリックで拡大表示]