巨額をかけて建設される大規模なスタジアムやアリーナは、街づくりの核として社会的責任を背負う施設になりつつある。米国では気候変動対策の重要性を提唱するアリーナが誕生し、日本でもその萌芽が見られる。
アメリカ北西部の先住民族の帽子をモチーフにした屋根を持つ米シアトルのKey Arena(キー・アリーナ)が2021年10月末、改修工事を経て生まれ変わった。注目すべきはその施設名だ。命名権を取得した米Amazon.comは「Climate Pledge Arena(クライメイト・プリッジ・アリーナ)(以下、CPA)」と名付けたのだ〔写真1〕。
施設名を訳すと「気候誓約アリーナ」。通常、命名権を取得した企業は、企業名や商品名を入れがちだが、CPAにはAmazon.comの宣伝要素は一切ない。同社は日経アーキテクチュアに、「気候変動は我々の時代における最大の危機だ。対策が急務だということを長く、定期的に周知することが命名の狙いだ」とコメントした。
気候変動への対策の柱としてAmazon.comが掲げるのが(1)脱炭素、(2)節水、(3)廃棄物ゼロ──といった項目だ。
まず、資材調達にかかる二酸化炭素(CO2)排出量を最小限に抑えるために、旧アリーナのガラス壁や重量が2万トンを超える屋根を再利用した。屋根を吊り上げてから仮設の柱で支えて客席を撤去。その後、敷地の土を約52万m3掘削して地下空間を拡充し、広さを旧アリーナの約2倍にした〔写真2〕。

さらに、施設内の空調や調理機器といった全ての設備を電化した。電力はアリーナや駐車場の屋根などに搭載した太陽光パネルで発電・供給して、不足分は近隣から100%再生可能エネルギーを調達する。
Amazon.comは、「CO2排出量が実質ゼロとなる世界初のアリーナだ。その他の取り組みを含めて、利用者はCPAでエンターテインメントを楽しみながら、気候変動の対策を体験できる」と自信を見せる。
- 所在地:米国ワシントン州シアトル
- 主用途:アイスホッケー、バスケットボール、コンサート、カンファレンス
- 延べ面積:約6万8750m2
- 収容人数:1万7100人(アイスホッケー利用時)、1万8100人(バスケットボール利用時)、1万7200人(コンサート利用時)
- 構造:S造
- 発注者:Oak View Group、Seattle Kraken Hockey、Seattle Center
- 運営者:Oak View Group
- プロジェクトマネージャー:CAA ICON(米)
- 設計者:Populous(米)
- 施工者:Mortenson(米)
- 開業日:2021年10月
- 事業費:約1320億円