隣接する歴史的建造物を引き立てつつ、地域の活力を引き出すことを目指す木造の公民館。地域材を、地域で生産・加工し、地域に残る大工の伝統技術も取り入れて、シンプルに見えて難度の高い木造空間を創出した。
北上山地の山間に位置する岩手県住田町に2021年4月、上有住(かみありす)地区公民館が完成した。築40年を超えて老朽化していた鉄筋コンクリート造2階建ての旧公民館を、平屋の木造に建て替えた。
この公民館の特徴は、屋根によく現れている。切妻をベースにした大きな屋根の片面が、途中から軒先ラインを外に広げている。そのたもとに三角形の軒下空間をつくり、さらに先へと軒先は延びていく〔写真1〕。軒先が指さすように向いた先には、隣接する歴史的建造物が立っている。地域で長く大切に守られてきた住田町民俗資料館だ〔写真2〕。1928年に上有住小学校として建てられ、85年に曳き家により、一部が保存されて民俗資料館になった。
- その他建築物
「旧公民館は資料館を塞ぐように立っていた。新しい公民館は、訪れる住民の正面に資料館が見えるように軸線を設定した」。設計を手掛けたパーシモンヒルズ・アーキテクツ(川崎市)共同主宰の柿木佑介氏はそう説明する。同社は、2019年に住田町が木造平屋建てを条件に実施した公募型プロポーザルで設計者に選定された。