2030年に向けて、現状維持の姿勢で設計の仕事や売り上げが維持できると考えている人は少ないだろう。どこに活路を見いだせばよいか。これまでの常識を疑ったり、日常に感じる疑問などを解決したりすることが近道になるだろう。
例えば、谷尻誠氏と吉田愛氏 「起業によって新しい価値示し 理想の建築をつくる環境へ」参照 。SUPPOSE DESIGN OFFICE(サポーズデザインオフィス)の関連事業を始めたり、不動産会社を設立したりした。後者は、通常なら見向きもされない土地を建築と一体で提案することで魅力的な場に変えようという発想だ。
谷尻氏が個人的に創設者となったtecture(テクチャー)は、事務所の所員がウェブサイト上で建材探しに多くの時間を費やしていることへの疑問から始まった。谷尻氏は起業家とも名乗っているが、新たな価値を示すことによって、自分たちが手掛けてみたい建築設計につなげようと考えている。
建築界や設計者の常識に染まっていない人物の発想が、今後、変革を呼ぶ可能性は高い。例えば、三菱地所など7社で立ち上げたMEC Industry(メックインダストリー)。仕掛け人の1人が三菱地所の関連事業推進室と兼務で取り組む伊藤康敬氏。あらゆる業種・業態を集め、中間コストをカットして建材やプレハブ住宅を低価格で供給する考えだ。

泉山 塁威
いずみやま るい 37歳
日本大学理工学部建築学科助教、ソトノバ共同代表理事、エリアマネジメント・ラボ共同代表理事
1984年札幌市生まれ。2015年明治大学大学院理工学研究科建築学専攻博士後期課程修了。設計事務所、明治大学理工学部建築学科助手、同大学助教、東京大学先端科学技術研究センター助教などを経て、20年4月より日本大学理工学部建築学科助教ほか
情報発信から調査・研究、啓発まで
「ソトノバ」では、2015年以降750記事を超える屋外・パブリックスペースの事例やトピックを情報発信。『タクティカル・アーバニズム』を21年に出版し、パブリックスペース活用における社会実験などをいかに長期的な制度やハード整備につなげるかを体系的にまとめた。グッドデザイン賞2021を受賞した「Placemaking Japan」では、プレイスメイキングを普及啓発するためのイベント(Placemaking Week)やPlace Gameガイドの作成などを行う
〔主要プロジェクト〕ソトノバ(2015年~)、Park(ing)Day Japan(17年~)、Place Gameガイド(21年)、神田ウォーカブル研究会、プレイスメイキングうつのみや、Placemaking Japan他、進行中
A1
2020年代には、ウォーカブルシティ政策をはじめ、ストリートや公園、都市開発の公開空地など屋外空間の活用は加速化する。これにモビリティーやテクノロジーの融合がより盛んになり、アクティビティーのデータ解析、モビリティーとアクティビティーのバランスのベストミックスを探ることで、30年には人々が豊かに幸せになる住みやすいウォーカブルな都市(Livable City、Happy City)が増えていくのではないだろうか
A2 「ウォーカブル・プレイス・シティ」
ウォーカブルという歩きたくなる都市政策は進んでいる。併せていかに人々が豊かに居心地よく過ごしたいプレイス(場所)をしっかり都市の中につくり込めるか。その方法論を模索しながら、2030年には多くの都市をもっと豊かにしていきたい

伊藤 康敬 いとう やすたか 47歳
MEC Industry取締役副社長兼三菱地所関連事業推進室専任部長
1974年生まれ。東京都立戸山高校卒業。98年慶応義塾大学経済学部卒業。2005年三菱地所入社。主に住宅部門で用地買収を担当。住宅業務企画部時代に木材の調達から製材、建材や戸建ての製造・販売までを一気通貫で手掛ける事業を提案。20年MEC Industry(鹿児島県霧島市)設立
工場全稼働に向け木製商品を洗練
2022年3月にMEC Industryの製材棟が完成予定で、これまで部分稼働だった工場が4月から全稼働となる。来るべき全稼働に向け、販売商品のさらなるブラッシュアップと、地元を中心とした雇用や企業体制の構築、販売商品の営業を急ピッチで進めている
〔主要プロジェクト〕CLT PARK HARUMI(発注:三菱地所、2019年)、ザ ロイヤルパーク キャンバス 札幌大通公園(事業主:ロイヤルパークホテルズアンドリゾーツ、三菱地所、21年)、MEC Industry社管理棟(22年予定)
A1
「木」があらゆる建築において当たり前のように使われる世界であるべきだ。環境保護の観点からの木材活用は当然のこととして、そもそもの「木」の有用性が認知され、低層のみならず中高層建築において、また住宅・事務所・商業・ホテル・物流・学校などあらゆる用途で「木」が見られる世界を実現させたい
A2 「規制緩和と商品開発」
「木」が活躍するフィールドを広げるには、規制緩和とさらなる価格競争力、そして付加価値を備えた商品開発が必須だと考えている