政府のカーボンニュートラル宣言を契機とした規制強化や、投資家の圧力を背景に、発注者が気候変動対策に本腰を入れ始めた。彼らに脱炭素への道筋を提示できない設計者や施工者は、活躍の場を失いかねない。
世界的な大富豪で、大地主としても知られる英国のウェストミンスター公爵。約340年前の当主が設立したグロブナー・グループは、世界最大規模の非上場不動産会社だ。そんなグロブナーが東京・東銀座で、ありったけの環境配慮技術を投入したテナントビルの開発を進めている〔図1〕。
地下1階・地上13階建ての「CURA GINZA」で採用した省エネ・創エネ技術は、ざっと17項目。高断熱化や照明・空調の効率化を図ったうえで、屋上や南面の外装に太陽光発電設備を設置。運用時の二酸化炭素(CO2)排出量削減を徹底する。
建設時のCO2削減にも抜かりはない。躯体には、施工者の東急建設を含むゼネコン13社が共同で開発した低炭素コンクリート「CELBIC(セルビック)」を国内で初めて採用した。製造時にCO2を大量排出するセメントを高炉スラグに置換し、環境負荷を減らす。
グロブナーがここまでやるのは、「自ら管理する全ての建物で、運用に伴うCO2排出量を2030年までに実質ゼロにする」といった方針を19年11月に掲げたからだ。
日本事業を統括するグロブナーリミテッドの平谷浩三日本オフィス社長は「環境配慮に取り組むのは当然のこと。建設コストは高くつくし、すぐに収益に結び付くわけではないが、今から始めて、レシピを持っておかなくてはならない」と力説する。