建設時の二酸化炭素(CO2)排出量を減らすうえで有効なのが、既存躯体の再利用だ。製造時に多くのCO2を排出する建築資材の使用量を抑えられる。こうした効果に着目したプロジェクトが増えつつある。
2021年10月上旬、東京都新宿区の住宅街で2日間にわたって開かれた見学会は、報道関係者など300人近くが訪れる盛況ぶりだった。お目当ては、1971年に竣工した旧耐震基準の9階建て賃貸マンション「シャトレ信濃町」を、新築に引けを取らない状態に再生する工事だ〔写真1〕。
老朽化した建築物を新築同様に改修して資産価値を高める「リファイニング建築」を提唱してきた青木茂建築工房(福岡市)が設計した。社会全体で脱炭素に向けた機運が高まるなか、シャトレ信濃町の再生計画では、建設時の環境負荷を大幅に抑えられる点をアピールしている。
シャトレ信濃町は、延べ面積が2610m2の中規模マンションだ。鉄骨鉄筋コンクリート造(一部、鉄筋コンクリート造)の既存躯体の84%を再利用することで、建築資材の製造に伴うCO2排出量を建て替えと比べて72%も削減できる。
排出量は、商品企画を担う三井不動産と東京大学大学院の清家剛教授が共同研究を通じて算出した。躯体を構成するコンクリートや鉄筋、鉄骨の使用量に排出原単位を乗じて計算している〔図1~3〕。
清家教授は、「既存躯体の再利用による効果は大きい。一般的に、建設時のCO2排出量のうち、コンクリートと鉄の製造に伴う排出量がおよそ9割を占めるからだ」と説明する。