2019年10月の東日本台風がもたらしたタワーマンションの浸水災害をきっかけに、集合住宅の水害対策が脚光を浴びた。気候変動の影響で水害の激甚化が見込まれるなか、新築・既存を問わず対策は加速しそうだ。
投資用マンションを開発するシーラ(東京都渋谷区)は東日本台風の直後、社内で浸水対策の勉強会を始めた。「浸水リスクのある土地に立っていても資産価値が下がらず、入居者を水害から守れるマンションの提案が急務だった」とシーラの湯藤善行代表取締役CEO(最高経営責任者)は振り返る。
21年10月に入居が始まった東京都江東区の「シーフォルム住吉」は、その成果を実践した第1号物件だ〔写真1〕。洪水ハザードマップを基に、高さ1mの浸水から建物を守る対策を施した。1階のエントランスホールとエレベーター、共用廊下などを囲むように水害対策エリア(内側への浸水を防ぐ領域)を設け、開口部に止水板や止水扉を設置した〔図1〕。
東日本台風では下水が逆流して貯留槽から建物内にあふれ出し、地下の電気設備が故障する被害がクローズアップされた。その教訓を踏まえて地下室自体をなくし、電気設備と給水ポンプは敷地内で最も高い位置にかさ上げして設置した。
下水の逆流リスクがある1階の管理人用トイレは水害対策エリア外に設ける徹底ぶりだ。一連の対策費用は総工費10億円弱の1~2%を占める。投資家に浸水対策について説明すると、当初示していた金額よりも数億円高く購入してくれた。