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気候変動がもたらす現象の1つが海面水位の上昇。居住エリアが水没したり、高潮の被害に遭いやすくなったりするなど、影響は深刻だ。こうした未来に備え、水上に建築や都市をつくる試みが始まっている。

 オランダ第2の都市ロッテルダムのレインハヴェン港で2021年9月6日、世界最大の水上オフィスがオープンした。水位が上昇しても浸水することなく、利用者に安全で快適な空間を提供する〔写真1〕。

〔写真1〕世界最大の水上オフィスが誕生

水上オフィスには、国や企業などに気候変動に関する情報を提供する国際団体、世界適応センターが入居する。第8代国連事務総長の潘基文氏がセンターの共同議長を務める(写真:Powerhouse Company)
水上オフィスには、国や企業などに気候変動に関する情報を提供する国際団体、世界適応センターが入居する。第8代国連事務総長の潘基文氏がセンターの共同議長を務める(写真:Powerhouse Company)
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 CLT(直交集成板)を躯体に採用した3階建て、賃貸可能面積約3600m2の水上オフィスは、大きく張り出した切妻屋根が特徴。南側には約800m2にわたって太陽光発電設備を載せて建物の電力を賄う。北側には緑化を施した〔図1〕。

〔図1〕太陽光発電設備などでカーボンニュートラルを実現
〔図1〕太陽光発電設備などでカーボンニュートラルを実現
下水については、建物の動きに追随する可とう管を水底にはわせ、ロッテルダム市の下水道と接続。浮体の内部に設けたポンプで送り出している(資料:Powerhouse Company)
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 設計を担当したのは、ロッテルダムのPowerhouse Company(パワーハウスカンパニー)。水上オフィスの設計は初めての経験だ。陸上の建築物との違いに苦心した。

 まずは浮体の材料選定。安価で維持管理が楽なコンクリート製を選んだはいいが、問題は二酸化炭素(CO2)排出量が多い材料である点だ。一計を案じた同社は浮体内に水管を通し、運河の水との熱交換による冷房を実現。環境負荷を減らした。

 浮体の施工方法も水上の建築物ならでは。オランダ国内のドックで15分割してつくり、鋼製のケーブルで一体化した。「現場に曳航(えいこう)するため、橋や閘門(こうもん)などを通れるか確認せねばならず、物流にはかなり苦労した」(同社広報のルネ・サピエン氏)

 建物部分の設計では、荷重が偏って転覆するのを避けるために、左右対称なプランを採用している。

 国土の4分の1が海面よりも低いオランダでは、水上の住宅は既に珍しくない存在。気候変動によって海面水位が上昇する時代を先取りしたような水上オフィスが、世界に先駆けて誕生したのもうなずける。