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JR、私鉄、地下鉄が集まる巨大ターミナルの再編で周辺の都市的課題を解決し、エリア間競争の相手となる渋谷や品川にない個性を生み出す。駅直近が先導し、西新宿の超高層街の再整備も、いよいよ本格化する。

 複数鉄道の乗降客数合計が1日350万人を上回り、ギネスに世界一と認定された新宿駅。駅を囲む各方向に個性的な地区が存在しながらも、巨大ターミナルに阻まれて街全体では回遊性が欠けるなどの課題がある〔写真1〕。駅ビルの老朽化などを機に拠点再整備が始まるため、併せて都市基盤の改良を進める。

〔写真1〕駅東西の分断解消などに向けてターミナル再編
〔写真1〕駅東西の分断解消などに向けてターミナル再編
北側上空より望む。1960年代に竣工した駅直近の小田急百貨店(西口地区)、京王百貨店(西南口地区)が、建て替えの口火を切る。2040年前後には超高層街(右下)の更新が視野に入る(写真:ITイメージング)※新宿駅西南口地区は第35回東京圏国家戦略特別区域会議で、都市再生プロジェクトに追加提案中である旨が公表されている。提案事業者は京王電鉄、JR東日本
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 先導役として、東京都が約10.1万m2に及ぶ「新宿駅直近地区」の土地区画整理事業に着手。2021年7月に事業計画を決定している。

 各計画は、「新宿の拠点再整備検討委員会」がまとめ、18年3月に策定された方針の下で進む。都市基盤としては西口・東口広場を再構成し、歩行者優先に転換。線路をまたぐデッキで両者を結び、最大の課題だった駅東西の分断を解消する。

 同委員会で副会長を務めた東京工業大学環境・社会理工学院の中井検裕教授は、「東西デッキは線路上空のものとして国内最大級、新宿の新しいシンボルになる」と語る。同デッキや西口・東口広場の一部完成は35年度、事業完了は46年度。長期展開の事業となる。

 駅直近地区では、1967年竣工の小田急百貨店新宿店本館が建て替えの準備に入った。高さ約260mの新宿駅西口地区開発計画の建設を小田急電鉄と東京メトロが進める。百貨店は22年9月に営業終了の予定。29年度の竣工を目指す。

 南側に並んで立つ京王百貨店新宿店も、21年10月の国家戦略特別会議で都市再生プロジェクトに追加提案された旨が報告されている。広場の西側に面する敷地では、「明治安田生命新宿ビル」の建設が進む。

 駅直近地区に続き、新宿区は21年7月、「西新宿地区再整備方針検討委員会」を設置した。

 同地区には10年に新宿副都心エリア環境改善委員会が発足し、エリアマネジメントを担ってきた。同委員会技術担当理事の小林洋平氏(所属・大成建設)は、「当初からウオーカブルな街をイメージしてきた」と語る。「駅東西を結び、新宿中央公園から新宿御苑に至る軸線が確立すれば、競合する渋谷、品川などとは異なるユニークな都市骨格を持つエリアとなる。これをモールのように生かすことを提案している」(小林氏)

 新宿副都心には1970年代以降、特定街区制度による有効空地を配した超高層街が形づくられた。その過半を道路、公園、民地内公開空地が占める。半面、ビルや街区の独立度が高く、行き来の便利な街ではなかった〔図1〕。

〔図1〕新宿中央公園・新宿御苑を結ぶ東西軸線を確立

駅構内の地下では、20年7月に幅員約25mの東西自由通路が開通。一方、線路上空の東西デッキの計画上の幅員は15mだが、拠点再整備方針で示された「新宿セントラルプラザ」と一体の広場になるとみられる。「現在は複数鉄道の改札が地下に集中している。東西デッキを改札階とし、重層的な歩行者ネットワークによって人流の分散を図る。居心地のよい駅空間となるはずだ」(新宿区新宿駅周辺整備担当部新宿駅周辺まちづくり担当課の桃原由貴課長)(資料:日経アーキテクチュア)
駅構内の地下では、20年7月に幅員約25mの東西自由通路が開通。一方、線路上空の東西デッキの計画上の幅員は15mだが、拠点再整備方針で示された「新宿セントラルプラザ」と一体の広場になるとみられる。「現在は複数鉄道の改札が地下に集中している。東西デッキを改札階とし、重層的な歩行者ネットワークによって人流の分散を図る。居心地のよい駅空間となるはずだ」(新宿区新宿駅周辺整備担当部新宿駅周辺まちづくり担当課の桃原由貴課長)(資料:日経アーキテクチュア)
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中央通り

左手は、駅前から新宿中央公園に向かう幅員40mの中央通り(東京都道新宿副都心4号線)。右手は、新宿住友ビル。歩道部分は2015年以降、新宿副都心エリア環境改善委員会による道路占用事業の社会実験の舞台となった(写真:日経アーキテクチュア)
左手は、駅前から新宿中央公園に向かう幅員40mの中央通り(東京都道新宿副都心4号線)。右手は、新宿住友ビル。歩道部分は2015年以降、新宿副都心エリア環境改善委員会による道路占用事業の社会実験の舞台となった(写真:日経アーキテクチュア)
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東口広場

JR東日本とルミネが共同で、現代アーティストを起用する「美化整備」を展開。20年7月には、パブリックアートを松山智一氏、建築デザインをsinato(シナト)が担当したコミュニティースペースを広場の一角に開設している(写真:日経アーキテクチュア)
JR東日本とルミネが共同で、現代アーティストを起用する「美化整備」を展開。20年7月には、パブリックアートを松山智一氏、建築デザインをsinato(シナト)が担当したコミュニティースペースを広場の一角に開設している(写真:日経アーキテクチュア)
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西口広場

現広場は小田急百貨店(左手)と共に坂倉建築研究所が担当。「1960年代の思想で計画されたので車には便利だが、人には優しくない。歩行者や、それを助ける新しいモビリティーの利用に転換する時が来た」(中井教授)(写真:日経アーキテクチュア)
現広場は小田急百貨店(左手)と共に坂倉建築研究所が担当。「1960年代の思想で計画されたので車には便利だが、人には優しくない。歩行者や、それを助ける新しいモビリティーの利用に転換する時が来た」(中井教授)(写真:日経アーキテクチュア)
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西口広場の将来イメージ。車の上下移動用だったボイド(空洞)周りを歩行者用に転換したイメージが描かれている(資料:東京都・新宿区「新宿駅直近地区に係る都市計画変更について」より)
西口広場の将来イメージ。車の上下移動用だったボイド(空洞)周りを歩行者用に転換したイメージが描かれている(資料:東京都・新宿区「新宿駅直近地区に係る都市計画変更について」より)
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 近年は、歩車道周りの空間を「官民オープンスペース」と呼び、一体活用を模索中だ〔図2〕。社会実験なども踏まえて先行で実現したのが、住友不動産による新宿住友ビル三角広場の全天候型化や、損保ジャパンによるSOMPO美術館の地上部移転だ。

〔図2〕「立体的」な都市空間をにぎわい創出と交流誘導に活用
〔図2〕「立体的」な都市空間をにぎわい創出と交流誘導に活用
管理者の異なる広大なオープンスペースが地下と地上に立体的に重なる西新宿では、官民連携による、それらの一体活用が重要なテーマとなる。特に道路占用事業の国家戦略特区認定を受けている中央通りとその周辺は、重要な対象エリアとなる。一方、ターミナル側の広場(新宿セントラルプラザ)やテラスには、アクティビティーを生むための複数の「ラボ」を配置し、交流を誘導する仕掛けとする(資料:上は西新宿懇談会「西新宿地区まちづくり指針」、下は東京都・新宿区「新宿の拠点再整備方針」より)
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