建築物の脱炭素化へ、建築法規が激変する。法改正の方向性を検討してきた社会資本整備審議会の建築分科会での議論が曲折の末、2022年1月に決着した。年内にも予定される建築基準法と建築物省エネ法の改正では、「省エネ基準適合義務化」「4号特例の縮小」などが盛り込まれる見通しだ。報告書を基に制度のポイントをいち早く解説。先行して始まる法制度の話題も含め、建築実務・市場への影響を探った。

脱炭素大改正に備えよ!
省エネ基準適合義務化、4号特例縮小へ
目次
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建基法、建築物省エネ法改正へ 見直し案に850件超の意見殺到
脱炭素社会の実現に向けて建築実務のルールが激変する。2022年1月20日、建築基準法や建築物省エネ法を大幅に見直す方針を示した報告書がまとまった。25年度をターゲットにした「脱炭素大改正」、その内容とは。
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住宅も省エネ基準適合義務化 建築確認・検査でチェック
建築確認の見直し
「脱炭素」を旗印に、建築確認・検査制度が大きく変わる。新設の全建築物に省エネ基準適合義務を課し、建築確認・検査のプロセスでチェックする。中大規模住宅の届け出義務、小規模建築物の説明義務はなくなる。
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木造2階建ての審査省略廃止 仕様規定の必要壁量も増える
建築確認の見直し
省エネ基準適合義務化に合わせ、「4号特例」の対象が大幅に縮小される。省エネ審査と同時に、戸建て住宅など小規模な木造2階建てでも確認申請時の構造審査が必須となる。仕様規定における必要壁量も増える。
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木造3階建ては高さ16mまで建てやすく
建築確認の見直し
構造規定の見直しに伴い、木造で構造計算が要求される規模が「300m2以上」に引き下げられる。一方、木造3階建ては高さ16m以下まで許容応力度計算法を適用可能とし、2級建築士も手掛けられるようにする。
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伝統木造は「適判不要」へ規制緩和
建築確認の見直し
伝統的な木造建築技術(伝統木造)に再び光が当たる。限界耐力設計法を用いた伝統木造について、構造設計1級建築士が携わる場合「構造適判不要」となる見通し。気候風土適応住宅制度との併用も見込まれる。
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「再エネ促進区域」制度を創設 建築士に説明義務も
省エネ性能の引き上げ
戸建て住宅への再生可能エネルギー利用設備の導入促進に向けて国土交通省は、「再エネ促進区域」制度の創設を打ち出した。自治体が同区域内において建築士に再エネ設備の説明を義務付けられるようにする。
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戸建ては断熱等級「7」まで新設 ZEH上回る性能を評価
省エネ性能の引き上げ
2025年度の省エネ基準適合義務化に向けて関連制度の見直しが進む。住宅性能表示制度では断熱等級の上位等級を創設する。戸建てはZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)水準を上回る等級も設定する方針だ。
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子育て・若者夫婦世帯に補助 ZEH新築に100万円
省エネ性能の引き上げ
子育て世帯の住宅取得の負担軽減と、省エネ住宅の普及を図ることを目的として、国土交通省は新たな住宅支援制度を創設した。住宅ローン減税も見直され、省エネ住宅性能が高いほど優遇される制度となる。
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本格始動する木材利用促進法 木のCO2貯蔵量算定法も公表
木材利用の促進
建築分野における「脱炭素化」の柱の1つが、木材利用の促進だ。2021年に改正された木材利用促進法がこれから本格始動する。政府の目標策定に足並みをそろえ、木材による二酸化炭素貯蔵量の算定法も制定された。
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防耐火の岩盤規制を合理化 “ハイブリッド木造”が加速する
木材利用の促進
2000年に性能規定化された建築基準法だが、都市の安全を担う防耐火規制にはまだ、性能実証だけでは突破できない「岩盤規制」が残っている。国土交通省は木材利用の促進を狙いとして、基準の合理化を進める。
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防火・集団規定の遡及適用緩和 改修や用途変更を容易に
既存ストックの長寿命化
国土交通省は、既存ストックの長期活用を推進するため、既存不適格建築物について、防火・避難規定や集団規定を遡及適用するルールを見直す方針だ。緩和措置によって、改修や用途変更をしやすくする。
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22年度にも業務報酬基準見直し 業務負荷増大は報いられるか
重くなる建築士の責務
脱炭素化をきっかけとして、建築界に“ルールチェンジ”を迫る法改正方針。規制強化の側面も色濃く、建築士の責務は増える。現在進む建築士事務所の業務報酬基準の見直しは2025年度以降の再見直しも見据える。