子どもがバルコニーの手すりを乗り越えるなどして転落する事故が後を絶たない。自治体が建てた子育て世帯向け集合住宅でも悲劇が起こった。相次ぐ事故を防ぐため、NPO法人が手すりの形を見直す実験を重ねている。
神奈川県の最西端に位置する山北町で2020年6月27日、未就学の女児が鉄筋コンクリート造6階建てマンションの最上階にあるバルコニーから転落して死亡する事故が発生した。複数のメディアによると女児は4歳だった。バルコニーに踏み台になるようなものは設置されておらず、転落の原因は分かっていない。
事故事例の詳細
基準順守のバルコニーで事故
事故があったのは町が所有する子育て世帯向け集合住宅「サンライズやまきた」だ。町が地域優良賃貸住宅制度を活用したPFI事業(民間資金を活用した社会資本整備)として計画し、14年に竣工した〔写真1、2〕。
設計や工事監理などを手掛けたのは、特別目的会社(SPC)のやまきた定住促進パートナーズ(山北町)だ。日本PFIインベストメント(神奈川県藤沢市)が代表企業を務める。
町はサンライズやまきたの計画に際して要求水準書を示していた。その中で「防災と防犯に配慮した、安全で安心できる住宅づくり」などを挙げていたが、バルコニーの安全対策については定めていなかった。
だからといってサンライズやまきたのバルコニーが安全性への配慮を欠いていたわけではない。事故が起こったバルコニーのコンクリート製の手すりは、高さ1200mm。中央に入った高さ1100mmのスリットの幅は95mmだ〔図1〕。後述する建築基準法施行令や住宅性能表示制度が示す基準をクリアする設計になっている。
日本PFIインベストメントは日経アーキテクチュアの取材に、「建築関連法規を順守している。デザイン上の問題はなかった」と回答する。
山北町は転落事故を受け、全戸に対してバルコニーの利用状況の確認と注意喚起を実施し、安全対策を図った。
この事故は手すりに関する建築関連の基準を守り、足がかりになる物も確認できないにもかかわらず起こってしまったまれな事例だ。
相次ぐ手すりの乗り越え
近年、子どもがマンションのバルコニーを乗り越えるなどして転落する事故が相次いでいる。
21年6月に国土交通省が開催した社会資本整備審議会の建築物等事故・災害対策部会では、サンライズやまきたを含む5件の事故が特定行政庁から報告された〔図2〕。いずれも5歳以下の子どもが転落したとみられる。
20年9月、消費者庁は14年から18年までに9歳以下の子どもが建物から転落して亡くなった事故が37件発生しているとして、手すり付近に足がかりになる物を置かないようにするなどの注意喚起をした。37件のうち、1歳から5歳までの子どもが占める割合は4分の3を超えていた。