日本では、大手建設会社が自社での活用を念頭に置いて個別に開発を進めてきた建設3Dプリンター。世界を見渡せば、設立から間もないスタートアップ企業が主役となって急速に事業化を進めている。
特殊なモルタルや金属、樹脂などを積層し、家具や外構、建築物、土木構造物などを造形する建設3Dプリンター。Additive Manufacturing(付加製造)と呼ぶこの技術を巡り、世界では開発競争が激化している。
激戦区となっているのは欧州だ。オランダやフランスなどで多くのスタートアップ企業が立ち上がり、ロボットアーム型や門形のプリンターを実戦に投入しつつある〔図1〕。
〔図1〕欧州は建設3Dプリンター開発の激戦区
主に自らプリンターを開発しているスタートアップ企業を示した。他社からプリンターを導入して住宅事業などを展開する企業などは除いた
CyBe Construction(蘭)
セメント系3Dプリンターを手掛けるオランダの有力スタートアップ企業。日本では會澤高圧コンクリートがサイビーコンストラクションのプリンターを導入している
MX3D(蘭)
金属系3Dプリンターの開発を手掛ける。2021年にはオランダ・アムステルダムの運河に鋼製の歩道橋(下の写真)を架けた。竹中工務店と協業している
Vertico(蘭)
セメント系3Dプリンターを開発。スイスの化成品メーカー、SIKAのモルタルなどを利用
Twente Additive Manufacturing(蘭)
主に住宅向けにセメント系3Dプリンターを提供
WASP(伊)
クレーン状の大型3Dプリンターを展開する。天然素材(粘土やわらなど)を材料に使用するのが最大の特徴だ。クリスチャン・ディオールの期間限定店舗をドバイで印刷するなど、話題に事欠かない。下の写真はTECLAと名付けた住宅を印刷する様子
MOBBOT(スイス)
材料を押し出して積層していくセメント系建設3Dプリンターと異なり、コンクリートを高速で吹き付ける方式を採用している
Ai Build(英)
航空宇宙や自動車がメインターゲット。ソフトウエアに強みを持つ
XtreeE(仏)
セメント系3Dプリンターを開発。日本ではクラボウが導入。長さ40mの歩道橋(下図)の設計・施工を受注
Constructions-3D(仏)
建設現場での印刷が可能なセメント系3Dプリンター一式を6000万円超で提供。ベースマシンは小型クレーン
Concrete 3D(オーストリア)
ファサードの印刷に力を入れるセメント系プリンターメーカー
COBOD International(デンマーク)
BOD2と名付けた門形の大型セメント系3Dプリンター(下の写真)を、過去3年間に30台以上も納入した実績がある。ドイツの型枠メーカーであるPERIグループが出資。日揮グループも導入している
WOHN(デンマーク)
廃プラスチックや廃ガラスを原料に小規模な住宅の印刷を目指すスタートアップ企業
Hyperion Robotics(フィンランド)
セメント系3Dプリンターを手掛ける2019年設立のスタートアップ企業。廃棄物のリサイクルによるCO2排出量の削減にフォーカスしている
Aeditive(独)
アーム型のセメント系3Dプリンターを開発・販売。2019年設立。鉄筋にコンクリートを吹き付け、コテで成形することで、型枠を使用せずに鉄筋コンクリート構造物を印刷する
Natura Eco(セルビア)
門形やクレーン型のほか、ゴリアテと名付けた巨大なセメント系3Dプリンターを開発中
BetAbram(スロベニア)
住宅の印刷向けに門形のセメント系3Dプリンターを提供している
BESIX 3D(UAE)
ベルギーの建設会社BESIXの一部門。同社が2019年、アラブ首長国連邦のドバイに建設3Dプリンターのスタジオを設立した
モルタルを積層する以外にも、新たなアプローチが次々に生まれている。例えばドイツのAeditive(エディティブ)は、事前に組んでおいた鉄筋にロボットアーム型のプリンターでコンクリートを吹き付け、コテで表面を仕上げて構造物を造形する手法を開発した。
従来のセメント系建設3Dプリンターは型枠こそ要らないものの、無筋の構造物しか印刷できないという課題があったが、同社の技術なら型枠無しで有筋の構造物をつくることができる。