米国や欧州と比べて建設3Dプリンターの実例が少なかった国内で、住宅やグランピング施設など複数のプロジェクトが立ち上がっていることが分かった。2022年は日本の「建設3Dプリンター元年」になりそうだ。
[セレンディクス×慶応義塾大学]
50m2の住宅を印刷
慶応義塾大学の田中浩也教授が代表を務める「慶応義塾大学SFC研究所ソーシャル・ファブリケーション・ラボ」の建築研究ユニットは、セメント系の建設3Dプリンターで住宅を造形するプランの実現に向けて研究を進めている〔写真1、図1、2〕。田中教授は東京五輪の表彰台を3Dプリンターで印刷するプロジェクトで設計統括も務めた第一人者だ。
慶大大学院の益山詠夢特任准教授が住宅の設計を、松岡康友特任准教授が3Dプリンターなどの改良を手掛け、田中教授は全体の監修を担当する。
このプロジェクトは、3Dプリンターで造形した住宅の販売に取り組むスタートアップ企業のセレンディクス(兵庫県西宮市)と共同で進めている。同社は2021年に、グランピングなどでの活用を想定した延べ面積10m2以下の小規模住宅を3Dプリンターで造形し、300万円で販売すると発表したことで知られる〔図3〕。
発表後、一般住宅が欲しいという声が多く寄せられたことから、田中教授に住宅プロジェクトを持ちかけた。同社の飯田國大執行役員COO(最高執行責任者)は、「老後の住宅へのニーズが強かった」と語る。住宅は300万~500万円での販売を目指している。
22年秋にプロトタイプを製作
計画しているのは鉄筋コンクリート(RC)造の平屋で、延べ面積は50m2、高さは4m。22年秋にもプロトタイプを製作する予定だ。
在来工法で施工したベタ基礎の上に3Dプリンターでモルタルを積層し、内外壁を兼ねる型枠を印刷。内部にコンクリートを打設する。
住宅は3つのユニットから成る。室内側にプリンターを置き、各ユニットの壁を印刷していく予定だ。1つのユニットの印刷が終わると、壁に開けておいた出入り口からプリンターを屋外側に出し、開口部を塞いで次のユニットの印刷に取り掛かる。
アーム型プリンターの導入を検討中。レール上を直線状に移動できる。移動範囲は、レールを延ばすことで最大14.7mまで拡張できる。
丸みを帯びた壁面が住宅のデザインの特徴だ。上部は造形可能な範囲で傾斜させる。各ユニットには天窓を設けて自然光を取り入れる。屋根を壁と一体的に造形するか、分けてつくるかはこれから詰める。田中教授は、「3Dプリンターで建設した住宅は世界中にあるが、壁を垂直に立ち上げて陸屋根を載せたものが大半だ。我々はその先を目指す」と意気込む。