竹中工務店は他の大手建設会社と異なり、スタートアップ企業などとの協業を通じて建設3Dプリンターの可能性を探っている。米国やオランダの企業とコラボレーションした成果を紹介しつつ、同社の戦略に迫る。
JR静岡駅から徒歩10分の場所にある竹中工務店静岡営業所を訪れると、キャンチレバーと有機的な形状が特徴のサインが出迎えてくれる。制作したのは、建築向けの樹脂系3Dプリンターを開発している米Branch Technology(ブランチテクノロジー)だ〔写真1、図1〕。
〔図1〕日米でディスカッションしながらサインの制作を進めた
キャンチレバーの先端に100kgの荷重がかかっても問題ないよう設計した。検査も含めウェブ会議などを通じてやり取りした




同社はロボットアーム型のプリンターを用い、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)で3次元の格子を印刷する技術を持つ。材料はすぐに固まるので、セメント系材料では難しい斜め上方向の造形も得意。同社はこの技術を外装材に展開中だ〔図2〕。
その新規性に目を付けた竹中工務店。サインの造形を依頼し、技術の特性を見極めることにした。プロジェクトを担当した竹中工務店名古屋支店設計部設計7グループの小杉嘉文課長は、「新しい技術とそれに応じたデザインプロセスで、従来と異なる形態を導く試みだ」と説明する。
トポロジー最適化で形状を探索
まず、スケッチを基にブランチテクノロジーと意見を交わし、造形可能なサイズや形状を確認した。
続いて材料の削減を目的に、支点や分岐条件などを変えながらトポロジー最適化(設定した拘束条件や荷重を基に効率的な材料分布を決定する手法)を実施。生成した形状を小杉課長が意匠に落とし込み、構造解析を経てデザインを決定した。
これを基にブランチテクノロジーが印刷用モデルを作製し、同社の工場で造形した。検査はオンラインで実施。接合部をチェックしたり、3Dスキャンの結果と設計モデルを重ねてずれがないか確認したりした。「全長は2cm程度のずれに収まった。セメント系3Dプリンターなどに比べてかなり精度が良い」(小杉課長)
最後に、サインを空輸して現地に据え付け、底版をモルタルで固定。2020年9月にスタートしたプロジェクトは、21年10月に完了した。
サイズが小さい割に形状が複雑なので、ブランチテクノロジーにとっても難しい案件だった。通常より小さい格子を形状に合わせて配置し、印刷するのに苦労した。同社シニアデザインアソシエイトのジェイソン・ベラシェク氏は、「別々に造形したピースを、最終的にシームレスに統合する点も難題だった」とする。