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建築には人生を変えてしまうほどのパワーがある。ある青年はシドニーオペラハウスに魅了され、エンジニアへと専攻を変更してインターン生として働き始めた。アラップ・グループ前社長の話だ。そんなオペラハウスの大規模改修を紹介する。

 オーストラリアを象徴する建築物、シドニーオペラハウスが2022年に生まれ変わる。軽快で独創的なプレキャストコンクリート(PCa)のシェル群がシドニーの真っ青な空とコントラストを成す。この劇場はコロナ禍前の17年時点で毎年820万人を超える観光客が訪れ、世界で最も利用される劇場の1つとして数えられている〔写真1〕。

〔写真1〕築50年に迫るオペラハウス
〔写真1〕築50年に迫るオペラハウス
1973年に竣工したシドニーオペラハウス・コンサートホール。意匠設計はデンマークの建築家、ヨーン・ウッツォン氏。57年に国際設計コンペが行われ、ウッツォン氏の案が採用された。2007年、世界文化遺産に登録された(写真:Arup)
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オープン以来、最大規模の改修

 アラップは設計当初からこれまで約60年にわたって、シドニーオペラハウスに関わるプロジェクト300件以上に携わっている。地下を貫く搬出入のためのトンネル工事や、レストランのライティングデザインなど大小様々なプロジェクトに携わってきているが、今回の改修は最大規模となる。

 予算2億200万豪ドル(約180億円)の大半を費やす主な改修工事は、館内に複数ある劇場のなかで最大のコンサート劇場である。劇場の音響改善、エレベーターの増設、コンサートやサーカスなど多様なイベントに対応できるスピーカーや照明・音響反射板などの天井吊り物の増設、それに伴う鉄骨フレームの補強を実施する予定だ〔写真2〕。

〔写真2〕劇場内の機能も更新
〔写真2〕劇場内の機能も更新
改修前のコンサート劇場の写真。2000席以上の座席数を持ち、クラシックコンサートや現代音楽、サーカスなど多種多様なイベントを催していた(写真:Arup)
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改修後のコンサート劇場のパース。音響反射板などの増設、スピーカーや照明などを吊る荷重容量を増やし、より安全で素早い入れ替えを可能にする(資料:Sydney Opera House)
改修後のコンサート劇場のパース。音響反射板などの増設、スピーカーや照明などを吊る荷重容量を増やし、より安全で素早い入れ替えを可能にする(資料:Sydney Opera House)
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シドニー交響楽団と行った音響反射板の実大実験の様子(写真:Sydney Opera House)
シドニー交響楽団と行った音響反射板の実大実験の様子(写真:Sydney Opera House)
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 オペラハウスが鉄骨造?と思う人もいるだろうが、外部のコンクリートシェルの内側に、劇場を包むように鉄骨のトラスフレームが構築されている。改修は、外観のデザインを変更せず内部のみを行う。

 特筆すべき点は、ニューサウスウェールズ州政府とオペラハウスが、保全管理計画の中で建物の原設計者であったヨーン・ウッツォン氏の息子であるヤン・ウッツォン氏にデザイン監修を依頼し、当初のデザインコンセプトを損ねずに改修するようにしたことだ。