全1271文字
PR

ロシア軍が制圧したことで注目されたウクライナのチェルノブイリ原子力発電所。2007年から19年まで、石棺や原子炉を丸ごと巨大なカバーで覆う前代未聞のプロジェクトが進められた。本稿では、その過程を改めてたどる。

 ウクライナの首都キーウ(キエフ)から北に約100km、ベラルーシとの国境に程近い場所にあるチェルノブイリ原発。ロシア軍が侵攻開始日の2022年2月24日に制圧し、3月末に撤退するまで1カ月以上も不安定な状況に置かれた。

 ソ連時代の1986年に史上最悪の事故を起こしたチェルノブイリ原発では、爆発で4号炉の建屋が吹き飛び、放射性物質を封じ込めるための「石棺」が急ピッチで建設された。その異様な姿が印象的だっただけに、真新しい金属製のカバーに覆われたチェルノブイリ原発の近況を報道で目の当たりにして、驚いた読者は少なくないだろう〔写真1〕。

〔写真1〕スパン257mの巨大アーチ
〔写真1〕スパン257mの巨大アーチ
NSCは100万年に1回の竜巻などに耐えるように設計された。ただし、外装は鋼板を張った程度。砲撃や空爆には耐えられない(写真:欧州復興開発銀行)
[画像のクリックで拡大表示]
爆発直後のチェルノブイリ原発(写真:欧州復興開発銀行)
爆発直後のチェルノブイリ原発(写真:欧州復興開発銀行)
[画像のクリックで拡大表示]
石棺に覆われた様子(写真:欧州復興開発銀行)
石棺に覆われた様子(写真:欧州復興開発銀行)
[画像のクリックで拡大表示]

 このカバーの名称は「New Safe Confinement」(新安全閉じ込め構造物、以下NSC)。スパン257m、長さ162m、高さ108m、総重量3万6000tのアーチで、高さは30階建てのビルに相当する。

 NSCは放射性物質の飛散を防ぎつつ、老朽化が進む石棺などの解体作業を安全に進められるよう設計された。内部には換気システムを備えており、耐用年数は100年間だ。事業費は15億ユーロ(約1900億円)。フランスを拠点とする大手建設会社のVinci(バンシ)とBouygues(ブイグ)によるコンソーシアムが設計と施工を、米Bechtel(ベクテル)がプロジェクトの管理を担当した。いずれも世界的に有名な企業だ。