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LVL(単板積層材)メーカーのキーテック(東京都江東区)とセイホク(東京都文京区)が、高強度LVLの新規受注を2022年3月中旬に停止した〔図1〕。原材料のダフリカカラマツ単板をロシアが輸出禁止にしたためだ。

〔図1〕単板禁輸の影響を取引先に伝える
〔図1〕単板禁輸の影響を取引先に伝える
キーテックが2022年3月14日から取引先に送り始めた文書。LVLに用いる単板をロシア産から国産などに切り替えることや、今後の対応は各社と個別に相談することを記載した(資料:キーテック)
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 キーテックが新規受注を停止したLVLは、曲げヤング係数区分が160Eと140Eの2種類。梁せいを抑えてスパンを飛ばしたい箇所や、大開口部のまぐさなどに部分的に使用される高強度部材だ。セイホクも140Eの受注を停止した。2種類の国内シェアは2社が大半を握っており、供給に赤信号が灯っている。

 LVLは、同一樹種の単板を同じ方向に重ねて製造する。6m超の長尺も生産できるため、戸建て住宅や木造建築物などで使われている〔写真1図2〕。集成材にも同程度の強度を発揮できる製品はあるが、断面寸法が大きくなることから、高強度LVLの需要が近年増えていた。

〔写真1〕キーテックのシェアは7割以上
〔写真1〕キーテックのシェアは7割以上
キーテックの木更津工場。同社では曲げヤング係数区分が160E~60Eの構造用LVLを生産する。構造用LVLの7割以上のシェアを握っている(写真:キーテック)
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〔図2〕単板を貼り合わせたラミナを積層
〔図2〕単板を貼り合わせたラミナを積層
LVLの製造工程。丸太から切り出した厚さ3~4mmの単板を乾燥させ、ヤング係数ごとに選別し、厚さ40mm程度の1次接着製品を製造。それを積層させて2次接着し、製品検査を経て出荷する(資料:日経アーキテクチュア)
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 キーテックとセイホクでは、樹種を変更して同等の強度を確保する考えだが、2022年4月7日時点で供給開始のめどは立っていない。キーテックの中西宏一社長は「顧客に対して、国産カラマツなどを用いた120Eに変更できないか、個別に提案している」と話す。

大きな設計変更になることも

 高強度LVLで設計し、部材の発注目前だった各地の案件では、設計者が仕様変更に追われている。確認済み証の取得後だと計画変更手続きも生じるので大ごとだ。

 枠組み壁工法の構造計算を手掛けるトニフォー・ティー・エス(東京都千代田区)の戸鳴宏樹課長代理は、LVLの140Eを用いた8mスパンの単純梁を、国産材を用いたトラス梁に変更するよう意匠設計者に提案したという。建物の用途は2階建ての介護老人保健施設だ。

 トラスは調達しやすい流通材でつくれる半面、天井懐がかなり大きくなる。この案件の場合も、階高の変更を余儀なくされている。

 キズクリ一級建築士事務所(北海道函館市)が構造の再計算を依頼された在来軸組み工法の老人ホームでは、スパン6.25mの梁に用いていたLVLの140Eを同寸法のベイマツ集成材(E150)に置き換えることで対応した。ただし、同社の星川広和代表は「集成材のE150は特注品なので、普通はすぐに手に入らない。たまたまプレカット工場が調達できたケースだ」と明かす。

 このほか変更のパターンとして多いのは、一般に流通している集成材のE135やE120に変更するパターンだ。星川代表は「スパンを4.55m以内に抑えれば、E120の集成材でも構造が成り立つ」と話す。

 現時点では、高強度の集成材も市中にそれなりの在庫があるが、時間がたつにつれて不足し始める公算が大きい。構造材最大手の中国木材(広島県呉市)の野田康宏営業推進課長は、「既存顧客に前年の納品実績分を提供するのが最優先。増産に努めるが、新規注文を全て受け入れられる状況にはない」と言う。

 プレカット会社などに入手可能な部材をこまめに確認しながら設計を進めなければ、手痛い損失を被る恐れがある。