天然ガスや石油、石炭といった化石燃料の多くをロシアに依存する欧州。ウクライナ危機を受けて、調達先の変更やエネルギー政策の大幅な見直しが始まった。住宅・建築物の脱炭素に向けた政策の針路を探る。
しゃにむに脱炭素へ突き進んできた欧州にとって、ウクライナ危機は手痛い打撃となった。というのも、欧州連合(EU)が2021年に輸入した天然ガスの約45%をロシア産が占め、断トツに多いからだ〔図1〕。
天然ガスは、石油や石炭と比べて温暖化ガスの排出量が少ないため、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行期を支える「トランジションエネルギー」として期待が大きい。脱石炭を進めるため、欧州各国は天然ガスのロシア依存を深めてきた。今回、それが裏目に出た格好だ〔写真1〕。
今後は一時的に石炭などへの回帰が進み、エネルギー政策は見直しを余儀なくされそうだ。では、住宅や建築物に関する欧州の環境政策は、どのように変化するのだろうか。
結論から言えば、これまでに以上に省エネルギー対策などが加速する可能性が高い。資源価格の高騰で重要性が増すからだ。EUの欧州委員会が天然ガスの脱ロシア依存を早める目的で22年3月8日に発表した「REPowerEU」と呼ぶ計画には、建築物の省エネと再エネの導入に関する記述がある。
省エネについては今後5年間で1000万台のヒートポンプを家庭に設置する目標を掲げ、それに伴い建物の改修、地域熱供給システムの近代化が必要だとした。欧州では石油などを燃やしてつくった温水を建物に巡らせて暖を取るセントラル式暖房が主流であるため、高効率なヒートポンプへの移行を後押しする。
再エネに関しては、屋上への太陽光発電設備の設置を加速させる考えを示した。6月にも、現状分析に基づく普及策を盛り込んだ「欧州屋上太陽光発電戦略」を発表予定だ。
欧州の民間サイドの動きはどうか。欧州の不動産市場に詳しい三井住友トラスト基礎研究所海外市場調査部の深井宏昭主任研究員は建築物の省エネについて「体力のある所有者を中心に、将来的な規制強化やエネルギーリスクを念頭に置いて省エネ投資を継続するのでは」とみる。
「再エネは相対的に安くなる」
日本はどうか。日本建築学会の田辺新一会長は「日本でも建築分野の省エネや再エネを拡大させなければならない。ウクライナ危機は、いみじくもそれを後押しする」と指摘する。
「エネルギー価格の上昇で、コストを理由に採用を見送ってきた省エネ対策の価値が見直される。再エネは化石燃料由来のエネルギーと比べて相対的に安くなり、導入しやすくなる」(田辺教授)との見立てだ。
国内では、新築住宅の省エネ基準適合義務化を柱とする建築物省エネ法の改正が予定されている。しかし、今夏の参院選との兼ね合いで、今国会への改正案の提出は、4月14日時点で未定。改正は既定路線だが、本気度に欠ける印象は否めない。
既存ストックの省エネ対策も欧米に比べて周回遅れ。ウクライナ危機を契機にギアを上げなければ、大きくうねり始めた世界の潮流から取り残されかねない。