設備×医学
建築と医療の架け橋 医学博士を持つ設計者
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ シニアエキスパート
伊藤 昭氏(1964年生まれ)

プロフィル 1988年に早稲田大学大学院修士課程(建築環境工学)を修了。同年日建設計入社。2008年に順天堂大学大学院医学研究科(感染制御科学)博士課程修了
資格など
- 設備設計1級建築士
- エネルギー管理士
- 建築設備士
- CASBEE建築評価員
- 博士(医学)
2020年春、新型コロナウイルス感染拡大という未曽有の事態に、世界中が混乱。国内でいち早く感染症対策と建築デザインについて情報発信したのが、日建設計だ。同社の伊藤昭氏の存在が大きかった。
これまで医療施設や美術館、研究所などの設備設計を担当してきた伊藤氏。設備設計1級建築士や建築設備士、エネルギー管理士などの資格を持つ。さらに突出してユニークなのは、医学博士でもあることだ。
博士号取得のきっかけは、約20年前に遡る。香港などで重症急性呼吸器症候群(SARS)が大流行したころ、米疾病対策センター(CDC)が医療施設のガイドラインを公表。感染症対策が建築の課題の1つとして認知され、研究の機運が高まった。
伊藤氏は順天堂大学の教授との縁や、会社の先輩から助言を受けたこともあり、働きながら順天堂大学大学院医学研究科に通い始めた。そして感染制御科学を研究し、医学博士を取得した〔写真3〕。
“三刀流”で相乗効果
病院の設計では多くの場合、勤務する医療スタッフにヒアリングをし、必要な設備や条件などを調査してから設計に進む。だが医療スタッフと建築設計者は使う用語が異なり、混乱することが少なくなかった。
「名刺に医学博士と書いてあると、医療スタッフが安心して話してくれるようになった。実際、話がかみ合ってきたと思う」と、伊藤氏はほほ笑む。
伊藤氏は設備設計とエネルギー管理、医学の“三刀流”だ。それらが互いに絡み合い、仕事に生きている。
最近はエネルギー管理に需要の高まりを感じている。2050年のカーボンニュートラルに向け、既存建築物は脱炭素化の対応を迫られている。だが、残された時間で大規模改修を実施できる機会はそう多くない。
伊藤氏は「設備設計者の役割が複合的になる中で、エネルギー管理士としての視点もますます求められるようになるだろう」と見通す。
エネルギー管理士とは
国家資格。エネルギー管理士は、多くのエネルギーを使用する工場などで、エネルギーの使用方法の改善や監視などを担うエネルギー管理者やエネルギー管理員になれる。2006年の改正省エネ法施行以前は、熱管理士と電気管理士に分かれていた