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オフィス面積を半減する富士通、淡路島に本社機能を移すパソナグループ。2020年に始まったコロナ禍において、両社はいち早くオフィス戦略の変更を決断し、注目を集めた。その後の進捗はいかに。計画を検証する。

 オフィス面積を半減する──。2020年7月に富士通が発表した新しい働き方に、多くのオフィス関係者は目をむいた。

 国内での感染拡大からまだ数カ月。多くの企業がニューノーマルを暗中模索するなか、富士通がテレワークを基本とし、オフィスの在り方を抜本的に変えると早々に決めたからだ。

 ある大手メーカーの総務部長は当時、日経アーキテクチュアの取材に対し、「富士通のオフィス戦略が今後の基準になるのだとしたら、当社も議論を急がなければならない」と話していた。ザイマックス不動産総合研究所が20年12月に約4万社を対象とした調査では、21.4%の企業が「面積縮小を検討している」と回答。富士通はトレンドを先取りしていたと言える。

 富士通の発表から2年弱。面積半減計画は順調に推移しているのか。

 同社は20年の発表時点で、オフィスを3分類するとした。1つ目は「ハブオフィス」。主要拠点を指し、「協働」を主な用途とする。2つ目は「ホーム&シェアードオフィス」。自宅や外部企業が提供しているコワーキングスペースを「集中」する場と位置付けた。3つ目は「サテライトオフィス」。ハブと自宅の間を埋める存在だ。これらを場所に縛られず働ける「ボーダレス・オフィス」と名付けた。

計画変更なし、ただし課題も

 「既存オフィスの9割以上をリニューアル予定で、計画に変更はない」。富士通でオフィス戦略を担当する赤松光哉・ワークスタイル戦略室長は、再編は予定通りだとしたうえで、「進捗率は50%だ」と明かした。

 首都圏のオフィス再編は22年までにほぼ完了した。東京都大田区などに散在していた複数のオフィスビルを解約。JR川崎駅直結のJR川崎タワー(地下2階・地上28階)の4~28階部分の6万9400m2を賃借し、新拠点「Fujitsu Uvance(ユーバンス) Kawasaki Tower」を整備した〔図1〕。

〔図1〕誰もが使いやすい「カフェ」のような空間
〔図1〕誰もが使いやすい「カフェ」のような空間
平面図 富士通の新拠点「Fujitsu Uvance Kawasaki Tower」の内観。不特定多数の社員が使うため、誰もが使いやすいカフェのような設えを採用。壁などによる区切りは極力排除し、中央の通路から周囲が一望できるプランとした。21年7月に移転(写真・資料:富士通)
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 原則として社員の固定席は撤廃。カフェ調のデザインや什器を採用し、従来の3~4倍の数のホワイトボードや大型モニターを導入した。インテリアデザインは主にコクヨ、一部をオカムラが手掛けた。

 同施設を含むハブオフィスでは、従来は最大で90%を占めた執務席を40%以下に抑え、チームワーク用の空間を最大で60%とした〔図2〕。

〔図2〕執務席は半減
〔図2〕執務席は半減
「富士通ソリューションスクエア」の改修前後の比較。従来は最大90%を執務席に充てていたが、チームワークのためのミーティングスペースを倍増。オンライン会議などのための会議用スペースは従来から微増の5~10%とした。ハブオフィスではこの割合を基本としている(資料:富士通の資料に日経アーキテクチュアが加筆)
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 同社によれば、アンケートでは、社員の大部分が新オフィスに対して好意的な評価をしている。一方で、徐々に課題も見えてきた。

 富士通の首都圏拠点に勤務する40歳代の男性社員は「オンライン会議用の場所が圧倒的に足りない」と不満げだ。協働がハブオフィスの主な用途とはいえ、個人作業やオンライン会議のために出社する場合もある。この男性社員の場合、出社してもブースが埋まっていて社外との会議の場所に困るケースが多いという。

 こうした不満は赤松室長にも届いている。「想定外だったのは、出社率が上がってもオンライン会議の回数が減らなかったことだ。メンバー全員が集まることは少なく、オンラインでも接続する必要性は変わらなかった」と赤松室長。今後、個人用ブースなどの増設や、オンライン会議の運用方法の見直しを検討する予定だ。

 もう1つの課題は出社率の低さだ。オンラインツールや働き方改革が浸透し、「在宅のほうが生産性は高い状態にある」(赤松室長)。その結果、オミクロン株の流行以来、出社率は10%以下の状態が続く。

 在宅勤務の生産性が高いとはいえ、同社は対面でのコミュニケーションが生む創造性も重視している。同社の現時点での仮説は、「出社率30%程度が適切」というものだ。

 対面での交流を増やそうと、役員による対話集会を定期的に開催するほか、生体認証などの先端技術を体験できる工夫も取り入れた。「イノベーションとの相関関係も検証しつつ、手を打っていきたい」(赤松室長)