コロナ禍によって事業環境や出社率が目まぐるしく変わる中、企業はオフィスに「可変性」を求め始めた。社員が什器を移動できるオフィスも登場。家具見本市でも、簡易にレイアウトを変更できる什器が目立った。
「可変性は、デザインのトレンドというより、もはや『大前提』として捉えられるようになってきた」。ベンチャー企業のオフィス内装を数多く手掛けるトレイルヘッズ(東京都渋谷区)の山口陽平代表取締役CEO(最高経営責任者)は、コロナ禍を受けて大半の企業が什器の配置やプログラムを柔軟に変更できるオフィスを求めるようになったと指摘する。
これまでも事業拡大に伴う人員増を見越して、執務スペースにゆとりを持たせたプランのニーズはあった。「コロナ禍で事業環境の変化が激しくなり、より『自分たちで機動的に空間を変えられる機能』が必要になってきた」(山口CEO)
意識的に混沌をつくり出す
日清食品ホールディングスがコロナ禍を受けてリニューアルしたオフィス「NISSIN GARAGE」はその典型だ。「変化に適応できる企業が強い。可変性を重視して、2020年夏ごろから3カ月でコンセプトを詰めた」と同社総務部の關(せき)倫太郎主任は振り返る。空間設計と施工をコクヨが担当。日清食品HDのデザインチームも設計に参加した。
価値観の違う他者とコミュニケーションを取ることで、想定外の気付きや偶然のアイデアを生み出すという意味を持つ「カジュアルコリジョン」。これを意図的に引き起こすため、一見すると雑多で混沌としたオフィスを意図的につくり上げた〔写真1〕。
最大の特徴は、単管パイプで組み上げたブースと、社員が勝手に移動できる執務机にある。
ブースはそれぞれの部署の大まかな居場所であり、中にミーティングスペースなどを配置〔図1〕。定期的に場所をシャッフルし、偶然の出会いを高める。ブースはレンチですぐに解体でき、大きさや場所を変更可能だ。
執務机の配置はランダム。机同士をつなぎ合わせて即興のミーティングスペースにしたり、端のスペースに移動して個人作業用のデスクにしたりと、社員が自由に配置する。取締役も含め全員がフリーアドレスだ。
それまでは部門ごとに壁で区切られており、部門間の交流に課題があった。全ての間仕切りを撤去し、役員部屋も全て廃止した。