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自宅とオフィスに次ぐ「サードプレイス(第三の場所)」として重宝され、増え続けるシェアオフィス。執務空間だけを用意するのではなく、飲食店などと複合し相乗効果を高めようとする動きが相次いでいる。

 2022年5月、川崎市高津区の住宅街に地域初のブルワリー(ビール醸造所)「みぞのくち醸造所」が開業した。先行して21年にオープンしていたシェアオフィスやダンススタジオなどから成る複合施設「BOIL(ボイル)」のテナントという位置付けだ〔写真1〕。

〔写真1〕個室なしで話しながら働ける場所に
〔写真1〕個室なしで話しながら働ける場所に
BOILのシェアオフィス内観。個室はなく、誰でも話しながら働ける空間とした。カーテン上に見えるオレンジの部材は、既存ビルに備わっていたカーテンボックス。この色味を施設全体のキーカラーとした(写真:日経アーキテクチュア、上の2点はリノベる)
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 BOILは、NTTが保有し通信基地局として利用していたNTT溝ノ口ビルに入る。地上4階建てで、1~3階を改修した。企画、設計、施工をリノベる(東京都港区)が手掛け、運営をNENGO(川崎市)が担当する。

 改修計画が動き出したのはコロナ禍初期の20年前半。住宅街という立地に対し、リノベるは「地域の誰もが楽しめる施設」をコンセプトとした。企画を担当した同社都市創造部の井上隆人氏は「コロナ禍で住宅地にもサードプレイスの需要が増えるだろうと踏んだ」とシェアオフィスを選んだ理由を振り返る。

 気軽に利用できる飲食施設のほか、防音機能を備えた「ダンススタジオ」など、地域住民が交流できるようなプログラムも取り入れた。川崎市高津区は知る人ぞ知るストリートダンスの聖地であり、ダンス人口が多いという特徴がある。

 地域住民に愛される施設にしようと様々なプログラムを採用したことが相乗効果を生んでいる。

 BOILのシェアオフィスはライトプランとして、1650円(税込)で都度利用が可能だ。ダンススタジオのスクールに子どもを通わせ、スクールの待ち時間にシェアオフィスで仕事をするという利用者が増えているという。

 「オフィスは10歳以上なら使えるので、ダンススクール帰りに親子で宿題をするという光景も見られる」。NENGO街つくり事業部の島尻優希チームマネージャーはこう話す。シェアオフィス利用者の95%以上が地元住民で、企画の意図通りの活用が進んでいると言えそうだ。

 課題は子どもや働く世代以外の層の利用促進。「ブルワリーのオープンをきっかけに、さらに多様な方々に使ってもらえるようにしたい」と島尻チームマネージャーは話している。