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AIを駆使して被害状況を可視化
95 Spectee(スペクティ)
設立:2011年 資本金:9000万円 従業員数:93人

 堤防の建設や建物の耐震性向上など、建築・土木業界が中心となって進めてきた防災対策。一定の成果は上げつつも、自然災害の激甚化に伴い想定外の被害が頻発し、ハードだけでは対応しきれなくなっている。

 「どうやって人々を安全に避難させるか。今後はソフト面の強化も重要だ」。こう語るのは、AI(人工知能)を駆使して防災対策の革新に挑むSpectee(スペクティ)(東京都千代田区)の村上建治郎代表取締役CEO(最高経営責任者)だ〔写真1〕。

〔写真1〕「防災でこそAIは本領を発揮する」
〔写真1〕「防災でこそAIは本領を発揮する」
Specteeの村上建治郎代表取締役CEO。阪神大震災や東日本大震災の被災地にボランティアとして参加したのを機に、防災に貢献できる技術の開発を目指した(写真:日経アーキテクチュア)
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 同社が開発したSpectee Proは、災害発生時にSNS(交流サイト)に投稿されたテキストや画像をAIで解析し、被害状況や位置情報を瞬時に確認できるサービスだ。水害発生時には、降雨量や降雨地の地形データなどを基に浸水範囲や深さを解析し、3次元(3D)マップ上に可視化する。

目標は「未来を予測するAI」

 しかし、Spectee Proには課題があった。夜間やSNSへの投稿が少ない山間部への対応だ。Specteeが開発したAIは、SNSに投稿された画像に映っている建物や看板、道路標識などから場所を特定する。そのため、投稿が少ないエリアや建物などが見えづらい夜間については、被害の推定に誤差が生じることがあった。

 そこでSpecteeは、夜間でも地表面の情報を取得できる人工衛星の合成開口レーダー(SAR)画像に着目。2021年9月からリモート・センシング技術センター(東京都港区)と共同で開発を進めている〔図1〕。

〔図1〕SAR画像を活用して弱点を克服
〔図1〕SAR画像を活用して弱点を克服
Specteeがリモート・センシング技術センターと共同で開発を進めている災害監視システムの概要。SAR画像とSNSに投稿された写真を活用し、災害時の被害をAIが推定する(資料:Spectee)
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 今後の目標は「未来の被害を予測できるAI」の開発だ。河川監視カメラや街中の定点カメラなどから得られる映像データと、気象情報や交通情報、人流データなどをAIが解析して、被害予測の実現を目指す。

 「1時間先の被害が予測できれば、人々は安全に避難できるようになる。災害時のリスクを少しでも減らせるように、サービスの質の向上に取り組んでいく」(村上CEO)