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大手企業を中心に木造の技術開発競争が進み、実例も続々と誕生。中高層建築を建てるうえで、木造は特殊解ではなくなりつつある。専門家は「勝負どころを見定める時機に来ている」と指摘する。

住友林業は2018年に「W350計画」の構想をまとめ、高層木造建築が普及した都市のイメージを提示した(資料:住友林業)
住友林業は2018年に「W350計画」の構想をまとめ、高層木造建築が普及した都市のイメージを提示した(資料:住友林業)
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 スーツ姿のビジネスパーソンたちが一堂に会し、商談に臨んだ。5月下旬、中高層木造建築の発展に向けた国際的なイベント「WOODRISE(ウッドライズ)」が東京で開催された。建設会社や設計事務所、デベロッパーなど20以上の大手企業が出資。このイベントに漂う熱気は、中高層木造建築市場の現況を象徴していた。

 国を挙げて取り組む建築の木造化のなかで、とりわけ中高層木造建築市場が過熱しているのはなぜか。

 まずはデータを見ていこう。

 林野庁の発表によると、2020年度は3階建て以下の公共建築の木造率が29.7%。10年度比で11.8ポイントアップした。低層建築では木造採用の傾向が高まっていることが分かる。

 国土交通省の建築着工統計調査によると、21年に着工した建物の総延べ面積は1億m2強。階数別では、1~3階建ての低層建築は総着工面積約7700万m2のうち約65%が木造だ。住宅に限ると80%を超える。

 一方、4階建て以上の中高層建築では、総着工面積約2900万m2のうち木造はわずか0.1%にも満たない。建築の木造化において中高層は低層に比べて伸びしろが大きく、林野庁も注力分野に挙げている〔図1〕。

〔図1〕4階建て以上の建築の木造化は伸びしろ大
〔図1〕4階建て以上の建築の木造化は伸びしろ大
林野庁は、少子化などの影響で今後の住宅着工戸数は全体として減少する可能性があるため、中高層建築と低層非住宅の木造化が極めて重要だとしている(資料:国土交通省の住宅着工統計を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 需要拡大の可能性に富むこの市場に建設会社はいち早く目を付けた。住宅会社も、縮小が続く国内の新築住宅市場を背景に、新たな収益源の確保を狙って参入した。SDGs(持続可能な開発目標)推進の広がりも追い風になっている。

 こうした波に乗ろうとする新規参入組も増えてきた。オフィスビルに強いデベロッパーの開発担当者はこう話す。「木造は企業イメージ向上にもつながる。借り手企業の注目度も高く、参入しない手はない」

 東京大学生産技術研究所の腰原幹雄教授は、現況を踏まえてこう指摘する。「高層木造建築を実現するための技術は出そろってきた。次は、どのテリトリーで開発するのか。各企業が自社の市場価値を踏まえて、勝負どころを見定める時機に来ている」

 これまでは開発した技術の新規性が市場競争の軸になっていた。それが、技術で達成した建物の高さや木材使用量を競い合う状況を招いた。だが、一品生産の高層木造建築だけでは、いつか行き詰まる。現に、「建ててみたはいいが、次の展開が見えない」と漏らす建築関係者もいる。