高層木造建築の普及に当たり、材料の調達は避けられない課題だ。三菱地所グループの総合木材会社MEC Industry(メックインダストリー)は、鹿児島湧水工場の本格稼働を開始した。発注者としての経験を生かした建材の開発・供給に挑む。
延べ面積は6棟で合計約2万7000m2。約100人の社員が働く。原木消費量の見込みは年間5万5000m3。平均的な木造住宅2300戸分の木材使用量に相当する──。
三菱地所や竹中工務店など7社が出資するMEC Industry(鹿児島県湧水町)は6月、この巨大木材工場の本格稼働を開始した。原木の調達から、高層木造建築を含む中大規模木造向け建材などの開発・販売までを一気通貫で手掛ける〔写真1〕。
MEC Industryは2020年1月に設立。きっかけは三菱地所が17年に開始したCLT(直交集成板)を利用する事業だ。事業性評価のなかで、建材の生産に無駄が多く、値段が高くなるという課題が見えた。そこで供給網の川上に遡り、中間コストを省く解決策に行き着いた。
工場は次のようなプロセスで稼働する。まず鹿児島県、熊本県、宮崎県の森林組合などから原木を調達。工場から車で10分ほど離れた場所に立つ鹿児島湧水素材センターに運んで皮をむいて丸太にする。素材センターから鹿児島湧水工場に丸太を運搬し、製材棟で板材にする。
次に、製造棟で板材をCLTやツーバイフォー材に加工したり、木板をそのまま天井仕上げ材として利用できる型枠材「MIデッキ」を製造したりする。MIデッキは地下1階・地上11階建てのハイブリッド木造ホテル「ザ ロイヤルパーク キャンバス 札幌大通公園」(札幌市)に使用された建材だ。
加工の対象は、直径34~60cmの丸太だ。一般的に直径が30cmを超える木材は「大径木」と呼ばれ、製材に大型の機械を必要とすることや利用用途が限定されることから、中径木や小径木に比べて需要が少ない。
MEC Industryは需要が少なく、市場動向の影響を受けにくい大径木に的を絞ることで生産の安定化につなげる考えだ。同社製造部の村田忠部長は、「ウッドショックのように木材が不足したり価格が急騰したりする事態が起こっても、その影響をある程度は抑えられるシステムにする」と意気込みを語る。