老朽化が懸念される築40年以上のマンションが全国で急増している。管理不全でマンションがスラム化する恐れもあり、対策は喫緊の課題だ。改正マンション法が2022年4月に全面施行。国はマンション再生を後押しする。だが、大規模な改修や建て替えを実施するには、資金の確保や区分所有者の合意形成など、様々な壁があるのも現実だ。こうした課題をいかに克服するか、先進事例を追うとともに、関連法制度を解説する。

老朽マンション 再生への道
改正法施行で広がる選択肢、管理不全の危機から救え
目次
-
築40年超えると不具合増加 迫り来るスラム化の危機
バルコニーのあちこちで外壁タイルが大きく剥がれている。手すりの鉄部もさびてぼろぼろ。バルコニーの裏面には雨染みも見える。給水管からは赤水が出て、配管からの水漏れも頻発しているという。
-
築80年を見据え外断熱改修 補助金で断熱工事費を8割賄う
花見川住宅(千葉市)
旧耐震基準で建てられた団地で、国土交通省の長期優良住宅化リフォーム推進事業を活用した、外断熱改修が進行中だ。躯体の寿命として想定する築80年まで住み続けるには、外断熱による性能向上が必要だと決断した。
-
国と市の補助金を受給し サッシ交換と外断熱工事を実施
エステート貝取-2(東京都多摩市)
14棟から成る団地型マンション「エステート貝取-2」は、3回目の大規模修繕の際に、性能向上改修を選択。当初計画にはなかったサッシ交換と外断熱改修を追加した。それを可能にしたのは、2つの補助金の受給だ。
-
積立金は値上げせず性能向上 長期の修繕周期を18年に延長
朝日パリオ浦和辻(さいたま市)
修繕積立金を値上げせずに仕上げや設備の耐久性を高め、付加価値を与える改修を行う。こうした性能向上改修は一般的に成立しにくい。朝日パリオ浦和辻では、修繕周期を延ばして工事の回数を減らすことで実現する。
-
共用部分と専有部分を同時改修 「スーパーリフォーム」で再生
目白武蔵野マンション(東京都豊島区)
築55年の目白武蔵野マンション(東京都豊島区)では、共用部分と専有部分を同時に改修して建物を一新する「スーパーリフォーム」に取り組もうとしている。分譲マンションでは困難だと考えられてきた再生方法だ。
-
前提は未利用容積と立地の良さ 敷地売却による再生の道も
解説
改修と並ぶ老朽マンション再生へのもう1つの道筋は全面刷新、つまり建て替えだ。課題は資金調達に必要な事業協力者の確保。好条件の案件はすでに建て替え済みと言われる中、建て替えを可能とする要件とは何か。
-
「敷地売却」と「まちづくり」 課題乗り越える新手法と新発想
事例紹介
建て替えの成立要件を満たす案件が限られてくる中、課題を乗り越える新しい手法や発想が登場している。マンション建て替え円滑化法に定める「敷地売却」と団地の広い敷地を生かした「まちづくり」の発想である。
-
適切な管理を自治体が認定 民間の格付け制度もスタート
改正マンション管理適正化法
国土交通省は2020年、マンション管理適正化法とマンション建て替え円滑化法を改正した。22年4月に施行された改正マンション管理適正化法では、自治体が民間マンションにアメとムチの両面から関与できるようになった。
-
外壁剥落や火災安全性を追加 「要除却認定」の対象を拡充
改正マンション建て替え円滑化法
改正マンション建て替え円滑化法が2022年4月に全面施行した。改正のポイントは要除却認定の対象拡充と団地における敷地分割制度。多数決で敷地売却や分割が可能になる。マンションの出口戦略の選択肢が広がる。