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旧耐震基準で建てられた団地で、国土交通省の長期優良住宅化リフォーム推進事業を活用した、外断熱改修が進行中だ。躯体の寿命として想定する築80年まで住み続けるには、外断熱による性能向上が必要だと決断した。

 花見川住宅(千葉市)は、日本住宅公団(現在の都市再生機構)が1968年に建設した40棟からなる団地型マンションだ。4回目の大規模修繕のタイミングで、外断熱改修を実施している。鹿島建物総合管理(東京都新宿区)が大規模修繕工事の全体コーディネートと設計・施工など、高屋設計環境デザインルーム(金沢市)が断熱改修の設計などを手掛ける。

 花見川住宅は、国土交通省の長期優良住宅化リフォーム推進事業(以下、長期優良事業)を活用して、旧耐震基準の建物を外断熱改修する数少ない取り組みだ。長期優良事業は現行の耐震基準を満たすことが補助金の支給条件になる。そのため、旧耐震基準の建物だと耐震補強費用がかさみ、断熱改修費用まで確保するのが難しいと考えられている。

 花見川住宅で長期優良事業を活用できた要因の1つは、耐震診断で40棟中38棟が現行の耐震基準を満たしていたことだ。耐震補強工事が少なく済むので、工事費の大幅な増額を避けられる。建物は全て鉄筋コンクリート造の壁式構造で、2戸1の階段室を設けている。それを雁行(がんこう)に配置している2棟だけが、耐震強度不足だった〔写真1〕。

〔写真1〕雁行配置の住棟で耐震強度不足が判明

耐震強度が不足していた雁行(がんこう)配置の住棟。既に耐震補強と外断熱改修を施した(写真:日経アーキテクチュア)
耐震強度が不足していた雁行(がんこう)配置の住棟。既に耐震補強と外断熱改修を施した(写真:日経アーキテクチュア)
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外断熱改修を終えた花見川住宅の完成予想パース。外断熱を施す東西の妻面を、カラフルに色分けする(写真:高屋設計環境デザインルーム)
外断熱改修を終えた花見川住宅の完成予想パース。外断熱を施す東西の妻面を、カラフルに色分けする(写真:高屋設計環境デザインルーム)
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 高屋設計環境デザインルームの高屋利行代表は「2戸1の階段室を設けた団地型マンションは耐力壁が多くなるので、雁行配置していなければ、現行の耐震基準を満たす可能性があると分かった。このタイプの建物にとっては朗報だ」と話す。

 大規模修繕に長期優良事業を使うのは賢い方法だ。断熱改修や耐震補強に加え、大規模修繕で一般的な外壁塗装やバルコニーの床防水なども部分的に補助対象になる。

 長期優良事業にはいくつか種類があるが、花見川住宅で申請したのは、戸当たり100万円か1事業当たり1億円のいずれか小さい額を補助限度額とし、対象工事の3分の1の補助率が適応されるタイプだ。

 花見川住宅では工期を複数に分けて補助金を申請し、総額約8億2200万円の獲得を目指している。外断熱改修にかかる工事費は約9億6000万円なので、補助金で8割以上を賄う計算になる〔図1〕。

〔図1〕補助金で外断熱費用の8割以上を賄う
〔図1〕補助金で外断熱費用の8割以上を賄う
花見川住宅で実施している大規模修繕の工事費、補助金の受給予定額、管理組合の支出金額、借入額、月額修繕積立金をまとめた。約8.2億の補助金で外断熱工事費(約9.6億)の8割以上を賄う。大規模修繕工事費のほとんどを借り入れ、一時金の徴収と修繕積立金の値上げを回避する(資料:取材を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 長期優良事業の申請は「住宅登録」をしてから1カ月以内に「交付申請」をするなど、期限内に必要な作業が多数ある〔図2〕。鹿島建物総合管理は申請業務を手掛けるのが今回初めてだったので、担当者1人が付き切りになり、長期優良事業に詳しい高屋設計環境デザインルームの協力を得ながら進めている。

〔図2〕長期優良住宅化リフォーム推進事業の補助金申請の流れ
〔図2〕長期優良住宅化リフォーム推進事業の補助金申請の流れ
長期優良住宅化リフォーム推進事業で2カ年申請する場合の流れをまとめた。①は2カ年申請の1年目の手続き、②は2年目の手続き、かっこ内は花見川住宅での実施年月を示す。「事業者登録」と「住宅登録」が済んでから1カ月以内に「交付申請」をする必要がある。交付決定に時間が掛かるので、交付決定前に着工できるようになっている(資料:取材を基に日経アーキテクチュアが作成)
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