建て替えの成立要件を満たす案件が限られてくる中、課題を乗り越える新しい手法や発想が登場している。マンション建て替え円滑化法に定める「敷地売却」と団地の広い敷地を生かした「まちづくり」の発想である。
立地条件は良いものの未利用容積がない都市部と未利用容積はあるもののマンション立地として難がある郊外部に分けて、マンション・団地の建て替えトレンドを紹介しよう。
まず都市部。実現への道筋の1つは、利用可能な容積率の確保である。典型は、総合設計制度を活用し容積率の割り増しを受ける例だ。最近は、マンション建て替え円滑化法に定める要除却認定マンションに対する容積率の特例を受ける例も出始めている。
一方、容積率を確保できなくても建て替えが実現する例も見られる。シンテンビル(左門町ハイツ)の例が、その1つだ(事例①)。事業協力者として参画した旭化成不動産レジデンスのマンション建替え研究所の大木祐悟副所長は「再建マンション内に同程度の広さの床を再取得するためには、当時の相場で新築分譲価格の半分程度の負担が必要だった」と明かす。
建て替え後は10%以上狭く
日影規制導入前に建設された既存不適格建築物。建て替えると床面積が10%以上狭くなる中で、建て替えに向けた合意を形成することが求められた。問題は、建て替えを前提とする評価が中古マンションの流通価格を3割以上も下回る点。建て替え後に床を再取得しようとする区分所有者の経済的な負担は重くならざるを得なかった。それでも最終的には、区分所有法に基づく「建て替え決議」を経て、等価交換方式(全員同意)で建て替えを実施した。


それでも建て替えが実現した理由の1つに挙げるのは、建物が限界を迎えていたという点だ。「建物全体の管理組合がなく、管理不全に近い状態で築50年を超えていた」(大木副所長)。建て替えの必要性について区分所有者の理解が得られやすかったという。
再取得を望む区分所有者以外は建て替え前の評価に見合う対価を得て転出した。「再取得は区分所有者の約3割と、これまでの経験に比べ少ない。区分所有者の多くが再取得を望んでいたら、建て替えは実現できなかった」(大木副所長)