国が、「居心地が良く歩きたくなる」まちづくりにかじを切った。河川や公園に続き、厳しく管理されてきた道路の占用許可基準の緩和を進め、全国の自治体がその動きに乗り始めた。2つの制度改革を解説する。
都市部の多大な面積を占める道路。その活用の規制緩和は、まちづくりに強いインパクトを与える。ワークライフバランスの重視など日常生活の豊かさに人々の関心が向かうなか、その舞台となる人中心のまちをつくる切り札になる。
民間が道路を利用するには、市町村など道路管理者や所管警察署長からの許可を取得する必要がある。管理する側は歩行者や車両が安全に通行できる空間を重視するため、公共性を主張する利用だとしてもハードルは高かった。その道路が河川や公園と共に公民連携の舞台となれば、公共空間の整備、そこに設置する民間施設、沿道やエリア内の建物の在り方を変える引き金になる。
現在、これらの動きは「ウォーカブル」と総称されている。しかし、「歩く」「道路」といった点が主眼ではないと、ワークヴィジョンズ代表取締役の西村浩氏は強調する。同氏は本特集に登場する広島県福山市、愛知県岡崎市の他、複数の都市でウォーカブル施策の取りまとめに参画している。その経験から、「道路整備の話に矮小(わいしょう)化してはいけない。複合的に存在するまちの様々な課題を解決する手段がウォーカブル化だ」と話す。
肝になる2つの法改正
道路活用にまつわる制度改革で大きな動きがあったのは2つ。改正道路法「歩行者利便増進道路」(通称:ほこみち)制度と改正都市再生特別措置法の施行だ。
改正道路法の施行に先駆けて実施した規制緩和は、コロナ禍の影響を受ける飲食店などを支援するために国土交通省が設けた特例措置だ。2020年6月から、沿道の飲食店などの道路占用許可基準を緩和した。
満を持して国交省は、ほこみち制度を創設。20年11月に施行した改正道路法に位置付けた。同制度は、道路管理者が歩行者利便増進道路を指定して運用。歩行者の利便性を上げるための空間「利便増進誘導区域」を歩道などに設ける。区域内では道路占用を柔軟に認める〔図1、2〕。
従来、道路占用の申請に対しては、道路の敷地外に余地がなくやむを得ない場合のみ占用物件の設置が許可された。「無余地性」と呼ぶ、大原則の基準だ。ほこみち制度ではこの適用が除外される。民間による空間づくりの自由度が高まる。
占用が認められる物件は、テーブルや広告塔、露店など幅広い。公募型の場合は、これまで通常5年だった占用期間を、最長で20年までにできる。民間が物件を設置するには、工事などの初期投資が必要になる。河川や公園における緩和策に倣い、長期占用を認めた形になる。
一方の改正都市再生特別措置法は、国交省が19年に設置した「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」(通称:ダイバ懇)の提言書が基になっている。
同改正法は、市町村が都市再生整備計画区域のなかに「滞在快適性等向上区域」(通称:まちなかウォーカブル区域)を設定して運用する。快適に滞在できるまちをつくる目的の区域内の事業に、さまざまな特例や、予算・税制面での支援を講じる。
国交省はこれらを併用すれば、居心地が良く歩きたくなるまちなかづくりに相乗効果があるとする〔図3〕。