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名古屋市を代表する繁華街・栄ミナミ。地域の商業者が手を組み、経済的に自立した運営体制で公共空間をイベントの場としてきた歴史がある。「通り」の個性化を観点にウォーカブルなまちづくりの先駆けとなる取り組みが進む。

 名古屋市には、商業ビルの立ち並ぶ車線の少ない通りをエリアマネジメントの対象とし、まちに個性を持たせていこうとする動きがある。先導するのは、中区の栄ミナミ。他都市に先駆けた取り組みが多いのは、2000年代中盤から民間自立型のまちづくり団体がまちなかでの音楽祭や歩行者天国などを精力的に展開してきた下地があるからだ。

 名古屋駅付近と比較して衰退傾向があるため、地域の再生が課題となってきた。イベントを主導する5つの商店街組合が、16年に全額民間出資の栄ミナミまちづくり(名古屋市中区)を共同設立。18年に都市再生推進法人の指定を受け、通りの活用にさらに踏み込んだ〔写真1〕。

〔写真1〕滞留できる空間を道路上に整備
〔写真1〕滞留できる空間を道路上に整備
名古屋市中区の南伊勢町通。3カ所のパークレットは、経済産業省の商店街活性化・観光消費創出事業として栄ミナミまちづくりが整備。自転車を車道側に誘導するなど道路空間の再編も進めた(写真:車田 保)
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 NAGOYAクリエイティブ構想に関わるなど次世代産業の拠点づくりを提案してきた建築家で名古屋工業大学准教授の伊藤孝紀氏〔写真2〕がこれに合流。エリアブランディングの観点で、社会実験などを推進した。

〔写真2〕クリエーティブ産業の育成も視野に収める
〔写真2〕クリエーティブ産業の育成も視野に収める
名古屋工業大学大学院社会工学専攻建築・デザイン分野准教授の伊藤孝紀氏。建築設計事務所タイプ・エービーの代表も務める。三蔵通沿いの立体駐車場1階をリノベーションし、クリエーティブ拠点として運用してきた。「公共空間活用は小さなできるところから始め、まず形を見てもらうと合意形成を進めやすくなる」(伊藤氏)(写真:日経アーキテクチュア)
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 その成果として、道路の一部に滞留の仕掛けを設ける「南伊勢町通パークレット」が、21年3月に実現〔図1〕。市による歩道拡幅と連携した事業で、常設化は横浜市や神戸市に次ぐものとなる。

〔図1〕タイプの異なるパークレットを常設
〔図1〕タイプの異なるパークレットを常設
A:南側に位置する矢場公園は、Park-PFIの対象となる可能性がある。同公園至近には、タイプ・エービーが設計した商業施設「SAKAE SOUTH PEAKS」がある B:通りから人を引き込む小広場を持つ C、D:変圧器の上をテーブル代わりにするなどパークレットはそれぞれ、タイプが異なる。面する土地のオーナーとの協議で、設置物と荷下ろしスペースの位置関係や、購買促進を想定した機能の調整など道路の再編は1年がかりとなる(資料:栄ミナミまちづくりの公表資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 栄ミナミまちづくりは、収益性のある事業にも着手〔図2〕。伊藤氏の監修の下、通り別にデザインの一貫性を持たせた環境改善と合わせてまちづくりを進める。22年度には、1本西側の筋となるプリンセス大通りに進化版のパークレットを設置する〔図3〕。

〔図2〕広告収入などを管理・運営経費に充てる
〔図2〕広告収入などを管理・運営経費に充てる
5つの商店街組合が共同設立した栄ミナミまちづくりは、歩道拡幅を機に通りを軸とするエリアマネジメント事業を展開。シェアサイクルポートや路上有料駐輪場、広告収入を見込めるデジタルサイネージをエリアの要所に設置した。パークレットにおける広告掲出も行い、収入を維持管理費に充てる(資料:国土交通省の公表資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
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〔図3〕ゴミ収集ステーションも一体デザイン
〔図3〕ゴミ収集ステーションも一体デザイン
プリンセス大通りでは、沿道テナントのゴミ収集の共同化を図り、収集ステーションとパークレットを一体的に整備する。上の写真は現況、下は整備イメージ。南伊勢町通ではスケートボードの利用によるパークレット破損が起こったため、凹凸のあるデザインで利用防止を検討している(写真:車田 保、下は名古屋工業大学伊藤孝紀研究室)
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