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QURUWA戦略の策定後、岡崎市は次の段階として基幹プロジェクトである籠田公園、中央緑道のリニューアルを完了させた。日常の光景に変化が起こり、「明らかに潮目が変わった」と関係者は口をそろえる。

 公共空間の使い手には、一般市民と、アクティビティーを誘発する役目の民間事業者の両方がいる。「好きに過ごし、見ず知らずの人と場所を共有する本来の公園の性質は大事にしたい。にぎわいや、稼ぎを上げる活動を強調しすぎないよう、バランスには注意が要る」。籠田公園〔写真12〕と中央緑道の設計を手掛けたオンサイト計画設計事務所代表取締役の長谷川浩己氏〔写真3〕はこう語る。

〔写真1〕市民が主体的に関わる場に
〔写真1〕市民が主体的に関わる場に
籠田公園。市街地中心部に位置し、合意形成の難しい立地だった。「行政に頼り切れる時代ではない。市民が主体的に関わる場にする必要がある。みなさんが当事者なのだと粘り強く説き続けた」と設計に携わった長谷川氏は語る(写真:吉田 誠)
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〔写真2〕禁止事項を設けない公園
〔写真2〕禁止事項を設けない公園
籠田公園。「禁止事項を設けない公園を理想とし、運用面を考慮しながら空間の質を上げようとする設計者の強い意志があった。それを尊重する地元側の思いが合わさり、今の風景が生まれている」と、市の都市戦略の策定に関わる岡崎まち育てセンター・りた事務局長の天野裕氏は語る(写真:吉田 誠)
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〔写真3〕人の姿を取り戻す
〔写真3〕人の姿を取り戻す
左はオンサイト計画設計事務所代表取締役の長谷川浩己氏。「公共空間に人の姿を取り戻し、まちのなかの生活の拠点となるようにしていきたい」と語る。右は岡崎市都市整備部公園緑地課公園活用係の森大輔氏(写真:左はオンサイト計画設計事務所、右は日経アーキテクチュア)
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 旧籠田公園に思い入れを持つ市民は多かった。「人が集まると聞くとネガティブな想像をしてしまう場合がある。近隣住民と一般市民の間にも認識のギャップがあるのが大変な点だった」(長谷川氏)

 計画内容に合意を取るために、16~17年に4回の市民参加ワークショップを開催した。いくつかの面で解ききれない課題が残った。

 例えば、新規事業の担い手を重視する動きに対し、当初は遠巻きに見ていた既存商店街との関係が悪化しかかった。また、商店街に接する籠田公園と違い、中央緑道は住宅街のなかを走る。沿道の不動産オーナーが、公園側とは異なる思いや不安を抱えていると分かってきた。

 市のまちづくりデザインアドバイザーを務める東京芸術大学准教授の藤村龍至氏はこう語る。「公共性を実現する時の“自分ごと”という言葉の受け取り方などにも差がある。30代半ばなら美談として受け入れる。70代になると『私物化だ』と否定する。両者を意識していないと、あるところで引っくり返される。そこは公民連携の生命線になる」

 そうしたなか、長谷川氏がデザインチームの一員に招いた小規模多機能自治の専門家、カントリー・ラボ代表取締役の宮崎道名氏が重要な役割を果たした。同氏は、自治会別の勉強会と並行し、計画地に接する複数自治会に対し、中学生以上を対象とする全住民アンケートを実施。そのプロセスが、まちの未来に対する危機感の共有を促し、市民それぞれが当事者感を持つきっかけになった。

 設計過程では、「一貫し、最初の段階で形を示すようなスタンスを取りたくないと考えていた」と長谷川氏は振り返る。「何が欲しいかではなく、どういう時間を過ごしたいかを聞き、空間づくりに反映させる。極力そういう流れを心掛けた」(同氏)