6地域、UA値=0.25
高断熱住宅は、空調の効率を追求すると「がらんどう」のワンルームになりがちだ。ワンルームの空間に、ちょっと座りたくなる場所をさりげなくしつらえる。性能と意匠にこだわった住宅を紹介する。
東京都練馬区の閑静な住宅街に、スギ板で仕上げたシンプルな外観の木造戸建て住宅がある。2022年2月に完成したこの家は、南に面した大開口の掃き出し窓を持つ。1階には間仕切りの無い大空間が広がり、床から1段下がった畳敷きのラウンジピットを備えている〔写真1〕。
「ラウンジピットに座ると、普段よりも低い目線になる。コーヒーやお酒を飲みながら、ゆったりと庭を眺めて穏やかに過ごしている」と建て主の妻はほほ笑む。ラウンジピットのほかにも、小上がりやベンチなど、リビングの各所にちょっと座れるスペースがさりげなく用意されている〔写真2、3〕。
この端正な木造戸建て住宅は、外皮平均熱貫流率(UA値)が0.25W/m2Kと、6地域の断熱等級7に相当する性能を達成している。設計はアイプラスアイ設計事務所(東京都新宿区)、施工は夢・建築工房(埼玉県東松山市)が手掛けた。
なぜここまで高い断熱性能の家を建てたのか。それは建て主からの強い要望があったからだ。
「以前住んでいた戸建て住宅は、夏は暑いうえに蒸し、冬は寒かった。新しい家を建てたいと思っていた中でコロナ禍になり、家に居る時間が増えた。そのような中で、健康的に過ごせて、気に入ったデザインの家にしたいと考えた」と建て主は話す。
建て主の家族は、インターネット上で様々な断熱性能の高い住宅を検索し、地域の工務店や、大手住宅メーカーに依頼することを検討したという。「どれを見ても普通の家だなと感じていた。その中でアイプラスアイ設計事務所が手掛けた住宅を見て、『こんなデザインの家にしたい』と思った。もともと木の家が好きだった」と、建て主は当時を振り返る。
アイプラスアイ設計事務所の飯塚豊代表取締役はこう説明する。「そもそも建て主が求めているのは、快適に住める家だ。断熱等級はあくまでもその指標の1つに過ぎない。ただの数字比べになってしまわないように、空間の抜けをつくったり、室内にゆったりと人がたまれる場所を設計したりする工夫が大切だ」