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従業員の平均年間給与を大企業で3%、中小企業で1.5%引き上げると表明すれば、総合評価落札方式による入札で加点する──。国が打ち出した優遇策などが契機となり、建設会社で賃上げが相次いでいる。
日経アーキテクチュアの過去の調査によると、鹿島、大林組、清水建設、大成建設の2011年度の平均年収は約863万~約880万円だった。それが21年度の調査では、約964万~約1128万円まで上昇〔図1〕。鹿島の平均年収は10年間で約250万円も上がった(平均年齢は0.5歳の上昇)。
〔図1〕建設会社の年間給与は決して低くない
日経アーキテクチュアの調査に2021年度決算期末の平均年間給与を回答した建設会社63社を対象に、上位20社の平均年間給与ランキングを作成した。大手5社がトップ5を占めた(資料:日経アーキテクチュア)
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建設現場では週休2日が浸透していないため、他業種の大企業と単純比較はできないにしても、近年の大手建設会社の年収はかなりの高水準だ。準大手・中堅ゼネコンも決して低くない。それでも、政府の強力な賃上げ圧力と入札での優遇策を背景に、賃上げに踏み切る企業が多い。
建築一式工事の完成工事高が100億円以上の建設会社を対象とした日経アーキテクチュアの調査では「22年度に賃上げを実施した」企業が72社中38社、「実施する予定」が22社だった。「実施しない」は3社にすぎない〔図2〕。
〔図2〕2022年度に賃上げを実施する企業が8割超
建設会社の賃上げ意欲は高い。2022年度に賃上げを「実施した」あるいは「実施を予定」する企業を合計すると全体の8割を超えた。「実施しない」と回答した企業は72社中3社にすぎなかった(資料:日経アーキテクチュア)
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建築設計事務所に対する調査でも、回答した99社のうち、「既に実施した」企業が57社、「実施する予定」の企業が24社で全体の8割を超えた
実施すると回答した企業からは、「『成長と分配の好循環』の実現に向けた政府の取り組みに寄与することが、当社の社会的使命と考えている」(清水建設)といった声が上がる。
賃上げ率は最多が「3%以上4%未満」で、実施企業の7割を占めた。大手5社のほか、21年度の建築売上高(単体)がトップだった大和ハウス工業も該当する。五洋建設と鉄建建設は「5%以上」と回答した〔図3〕。
〔図3〕最多は「3%以上4%未満」の42社
2022年度に賃上げを実施した、または実施予定と回答した企業に賃上げ率を尋ねた。「3%以上4%未満」が7割を占める。大手5社などが該当する。なお、設計事務所では「1%以上2%未満」がボリュームゾーンだった。設計・監理業務売上高がトップの日建設計は「3%以上4%未満」と回答した(資料:日経アーキテクチュア)
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賃上げ手法を複数回答方式で尋ねたところ、定期昇給を除けば「ベースアップ」が36社で最も多く、「賞与(一時金)の増額」(25社)、「初任給の引き上げ」(22社)、「再雇用者の給与の増額」(9社)が続いた〔図4〕。
〔図4〕定期昇給以外ではベアが最多
賃上げ手法としてベースアップを選択したのは36社。建築売上高上位10社では大和ハウス工業や大林組、大成建設、大東建託、長谷工コーポレーションが該当する(資料:日経アーキテクチュア)
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大和ハウス工業は、「年齢だけを理由とした一律的な役職定年を廃止し、60歳以上のシニア社員の処遇を改善する」と回答した