新・長崎駅の整備は様々な事業者が入り組む複雑なプロジェクトだった。にもかかわらず、統一的なデザインや長崎らしさにこだわった設計者の提案が高精度で実現された。県と市は「景観」への配慮に尽力した。
「長崎駅舎・駅前広場等デザイン基本計画」のプロポーザルで設計領域が選定されたのは2014年3月。その提案を基に16年3月、長崎県・市がデザイン基本計画を定めた。
「新幹線駅舎の計画では通常、鉄道・運輸機構が地元の要望を聞き、複数のデザインを提案する。それに対して新・長崎駅は、県と市が初めにデザイン基本計画として具体的なビジュアルを示した点が特異だ」
こう話すのは長崎市の高尾忠志氏だ。長崎市景観専門監として市の公共事業のデザイン監修や職員の育成に取り組む。デザイン基本計画の検討会議のメンバーも務めた。景観専門監はプロポーザルの前年に、田上富久市長の発案で設置された。
プロポーザルの提案書やデザイン基本計画と完成した新駅を見比べると、当初の計画が高い精度で実現していることに驚く〔写真1、図1〕。
設計領域の新堀大祐代表は、「デザイン基本計画から設計段階に移行しても当社が並走できる体制だった。それはデザインの一貫性を担保するうえで大きかった」と話す。
設計領域の新駅への関わり方は大きく3つの段階に分けられる。第1段階が14年のプロポーザルの提案、第2段階が14~16年のデザイン基本計画の作成、第3段階が16~22年の計画の意図伝達。肝になったのは第3段階の意図伝達業務だ。
先述の通り、新駅は長崎駅舎(新幹線)を鉄道・運輸機構、長崎駅舎(在来線)をJR九州の異なる2者が発注した。駅前広場の発注者も異なる。多くの事業者が複雑に入り組む計画のため、たとえ広域エリアのデザインを統率する指針をデザイナーが作成しても、そのエリアを構成する1つひとつの施設をつくる段階でデザイナーの手が離れれば、計画と完成したものの間にずれが生じかねない。
意図伝達業務を発注したのは県。ほかにも県と市は新駅に長崎市の特色を盛り込んだり景観に配慮したデザインを実現したりするうえで大きな役割を果たした〔写真2、図2〕。