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スポーツを見る・見せる──。日本でもそんな観客目線のスポーツ施設整備が急ピッチで進んでいる。試合を全力で盛り上げ、試合がない日も来訪者が途切れない。新たな「ドル箱施設」はつくれるか。

 「チームはめちゃくちゃ弱くて試合に毎回負けるんだけど、たくさんのファンで盛り上がれて楽しい。そんなこともある。スポーツの魅力は『強い・弱い』だけではない」

 スポーツ施設運営に詳しい追手門学院大学社会学部の上林功准教授はそう語る。同じ空間にファンが集まり、一体となって一喜一憂して盛り上がる体験、「スポーツ観戦」は今、新たな地域経済のうねりになろうとしている。

 きっかけの1つが経済産業省とスポーツ庁が打ち出した「スタジアム・アリーナ改革」だ。2020年度から「多様な世代が集う交流拠点としてのスタジアム・アリーナ」の先進事例選定を開始、25年までに20事例の選定を目指している。

 スポーツ庁は21年度時点で14事例を選定(計画段階含む)、「目標達成は確実」(坂本弘美・同庁参事官)な情勢だ。現在、22年度事例の選定が佳境に入っている〔図1~4写真1〕。

〔図1〕スポーツ庁「スタジアム・アリーナ改革」先進事例採択プロジェクト
〔図1〕スポーツ庁「スタジアム・アリーナ改革」先進事例採択プロジェクト
2021年度までに先進事例として採択されたのは14施設。緑色の部分がすでに完成して運営フェーズに入っているプロジェクト、その他が構想・計画段階または設計・建設段階のプロジェクトだ(資料:スポーツ庁の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
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〔写真1〕北の大地に生まれる新ボールパーク
〔写真1〕北の大地に生まれる新ボールパーク
北海道北広島市で2023年3月開業予定の「ES CON FIELD(エスコンフィールド)HOKKAIDO」(21年度に先進事例として採択)。プロ野球・北海道日本ハムファイターズの本拠地となる(写真:大林組)
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〔図2〕市民に開放する「里山スタジアム」
〔図2〕市民に開放する「里山スタジアム」
愛媛県今治市で23年2月供用開始予定の「FC今治新スタジアム」(21年度に先進事例として採択)。サッカーJリーグ・FC今治の本拠地となり、試合がない日はフィールドやクラブハウス以外のスペースを市民に開放する(資料:梓設計)
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〔図3〕九州最大の8000人収容
〔図3〕九州最大の8000人収容
佐賀市で23年5月にグランドオープン予定の「SAGAアリーナ」(21年度に先進事例として採択)。8000人以上を収容する九州最大の多目的アリーナで、県の総合運動場「SAGAサンライズパーク」における一翼を担う(資料:梓設計)
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〔図4〕市民募集で名称決定
〔図4〕市民募集で名称決定
横浜市で24年4月供用開始予定の「横浜BUNTAI」(21年度に先進事例として採択)。市民募集していたメインアリーナ施設の名称を22年7月に正式決定した。プロスポーツ、国際的な大会、コンサートなどに対応する(資料:梓設計)
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 国の狙いの1つが「観戦しやすさ」の重視だ。施設を熱心なファン以外でも楽しめる「スポーツホスピタリティー」を高めた拠点とし、地域経済の活性化を目指す。

 整備構想はこれにとどまらない。政策投資銀行地域調査部PPP/PFI推進センターの田村恵大副調査役のまとめによると、進行中のスポーツ施設新設・建て替え構想は全国で計88件にもなる。内訳はスタジアム・球技場が45カ所、アリーナ・体育館が43カ所だ(スポーツ庁選定の先進事例含む、22年10月31日時点)。

 PPP(官民連携)・PFI(民間資金を活用した社会資本整備)の普及も後押しとなっている。政府は22年10月、民間事業者の自由度をより高める改正PFI法を国会に提出した。現在、スポーツ施設を含む様々な施設運営に参入した民間事業者の契約期間内の総収入に当たる事業規模は約26兆7000億円だが、政府は22年度からの10年間で同30兆円にまで拡大させる目標を掲げた。