全2360文字
PR

数々の話題作を生み出し続けている竹中工務店の花岡郁哉氏が、実例を交えてファサード設計を解説する。初回は完成間近のショールーム兼オフィスビル。安全性や快適性、美しさを追求する。(日経アーキテクチュア)

 設計の実務では、たった1つの判断でもデザインのコンセプトや具体的な計画、性能、コスト、スケジュールなど多岐にわたる要素が関係する。その全てに対して、アイデアを積み重ねることが大切だ。本連載の初回では、事例や技術を紹介する前に、まず私の視座を伝えておきたい。

 設計者に求められるのは、社会や発注者のニーズを的確に把握し、課題を解決することだ。それをクリアした先に、設計者が個性を発揮できる、“自由な創造領域”が見えてくる。

 試行錯誤の末にたどり着く、論理と感性を兼ね備えた設計を私は常に心掛けたいと思っている。プロフェッショナルとして、安全性、快適性、関係性を十分に構築した上で、美しさを実現していきたい。

 ファサードの場合、安全性で考慮すべきは耐風圧性能や地震時の変形追従性能など。快適性では、断熱・気密・防音・防水といった性能の確保と、光や風など外部環境の取り込み方がポイントとなる。関係性では、「外部環境と内部環境」「人と街」「人と人」などをどう取り結ぶかを考える。利用者がどう感じるかという印象面も重視しなくてはならないだろう。

 専門的な内容を正しく理解し、意匠や構造、設備、施工といった分野で相反する要請を乗り越えなくてはならない場面でも、アイデアを提示しながらコンセンサスを構築していくのが意匠設計者の仕事だ。技術的判断を適切に下しつつ、いかに美しさを追求する自由な創造領域に踏み込めるか。そこに、ファサードを含めた設計の醍醐味があると思う。