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公的なまちづくりに関する事業には、公平原則などに基づいて様々な足カセがかかってくる。それは、公民連携事業の場合に、サービスの質を高めようとする動機を奪う場合がある。本連載では、民間が主導し、創意工夫に富む公的事業を実現させる取り組みを解説する。(日経アーキテクチュア)

 現在の地方行政では、民間に代替できるサービスはそちらに委ねていかなければ、財政を維持できないという現実がある。公民連携(PPP:Public Private Partnership)の仕組みをうまく整備することで、サービスの質が上がる可能性も高い。その代わりに行政は、自治体にしかできない公共サービスに専念すればよい。

 一方、建築・まちづくりの分野を含め、「民活」の取り組みは必ずしも適切に進んでこなかった。多くの第三セクターの経営破綻、補助金・交付金に依存する結果としての事業の自立性や持続性の欠如、コスト削減に偏重する指定管理など、受益者である市民の期待に応えるサービスになりきれず、課題を抱えてきた。

入札とも企画競争とも異なる

 建設(設計、施工)、運営を一体で進める公的事業については、1999年のPFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)施行などにより、公民連携のスキームは既にある。しかし、事業性を精査する仕組みが欠け、建設コストを圧縮するインセンティブ(動機)が働きにくいなどの問題があった。また、予算規模の小さい案件は対象になりにくかった。

 改めて公的事業を、PFIにこだわらずに持続可能なPPP事業として計画することは不可能ではない。もちろん前提としては、説明責任を果たせる手続きとし、議会からの承認や市民からの理解を得られる内容とする必要がある。

 こうした取り組みを先導した事例が、岩手県紫波町(しわちょう)のオガールプロジェクトだ。国土交通省(当時・建設省)の職員を経験した岡崎正信(筆者チーム)が東洋大学大学院経済学研究科公民連携専攻を修了後、「PPPエージェント」を名乗って2007年に着手した。東洋大学と紫波町が「米国型PPPによる独自の地域再生支援プログラム第1号」として連携協定を結んで進めたものだ。

 事業スキームとしての難度は高くなるため、そのままの格好で転用された事例はまだない。しかし、エージェント方式の核となる部分には“再現可能性”があると筆者チームは考えている。うまく応用すれば、旧来型の公共事業を見直し、新たに「公的な民間事業」を生み出していける。同時に、建築設計者や施工者の業務を、より地域の再生に資するものに変えていける可能性を持つ〔図1〕。

〔図1〕地域の再生に資する「公的事業」を推進
〔図1〕地域の再生に資する「公的事業」を推進
敷地単体で完結する計画やデザインから脱却しないと、地域再生(エリアの価値を高めるまちづくり)に貢献できない。また、竣工をゴールとする建設事業から脱却しないと、ライフサイクル収支を見失い、持続性に欠ける建物を生み出しかねない(資料:日経アーキテクチュアおよび筆者が作成)
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本連載で扱う「カダルテラス金田一」プロジェクト(写真:濱田 晋)
本連載で扱う「カダルテラス金田一」プロジェクト(写真:濱田 晋)
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