自治体の建築投資では、長期の経営的な視点を持ちにくく、担当者の人事異動も前提とする必要がある。それでも、公的な開発事業では、運営(維持・管理)開始後のライフサイクル収支を見失ってはならない。連載第3回では、公民連携(PPP)事業において、継続性や持続性をどう担保すべきかを解説する。(日経アーキテクチュア)
公民連携(PPP)事業による地域再生は、始めること以上に、目的の達成に向けて持続させることが重要になる。「まちの環境」の時間は、関わる個々の担当者の人生よりも長く、その環境の変化は属人的な状況や組織の事情に左右されてはならない。そのために、地域として共有していける指針を、できる限りオフィシャルな形で打ち出しておきたい。長い時間に耐え得るプロジェクトとするための備えを今一度意識する必要がある。
例えば、岩手県二戸市の「カダルテラス金田一」プロジェクト〔写真1、図1、2〕では、市役所の総合政策部公民連携推進課で当時担当していた五日市(筆者チーム、プロジェクト開始時は総務政策部政策推進課)の人事異動があった。竣工時には、企画段階で関わった行政メンバーもほぼ入れ替わっていた。運営に携わる民間のメンバーも、10年後に全員そろっている保証はない。
地域の未来につながる体制を
本プロジェクトでは、企画段階から「地域内で経済を回す」と強調していたため、市内の建設会社の受注が暗黙の了解のようになっていた。断熱性能とコストバランスに配慮して中規模木造として設計を進めていたが、市内の建設会社だけでは対応不可能だと見積もり段階で判明した。
市外の会社と検討し直すか、設計変更するかの判断を迫られた結果、木造から鉄骨造に変更する判断を受け入れた〔写真2〕。二戸市に限らず、行政の発言は簡単には覆せない。「地域=市内」と限定されないように言葉のニュアンスには配慮が必要だった。
プロジェクトをできる限り地域内の事業者で進め、経済循環を図る考え方そのものに間違いはない。ただし、スキルや経験の豊富さが期待される設計やデザインなどの領域では、本プロジェクトがそうであるように、地域外の人間が関わる事例は珍しくない。プロジェクトの体制づくりに関しては、本質的で中長期的な視野を保つためにも、エージェントの采配が期待される場面だと改めて感じる。