磯崎新が絶頂期の20世紀に手掛けた建築を写真で振り返る。いずれも国内に立ち、誰でも利用できる。磯崎新アトリエでは、まず磯崎がスケッチで形を描き、それを所員が解釈することで設計を進めていた。立方体、正四面体、半球──。こうした幾何学的な形には、磯崎の思考が宿っている。
群馬県立近代美術館(1974年竣工)
群馬県高崎市の県立公園「群馬の森」に立つ。1辺12mの立方体の集積によって建物を構成した。磯崎新によれば、形の抽象性を高めるため、力学的に性状が異なる柱と梁の断面寸法をあえて統一した。さらに外壁のアルミパネルとガラス面のグリッドを1辺120cm、エントランスホールの壁面と床の大理石パネルを1辺60cm、床タイルを1辺15cmの正方形にする徹底ぶりだ。磯崎が43歳の時の建築で、1975年に自身2度目の日本建築学会賞を受賞。竣工から34年後の2008年にリニューアルオープンした。
つくばセンタービル(1983年竣工)
ホテルや飲食店舗、コンサートホールなどを備える複合施設。筑波研究学園都市のランドマークとして建てられた。約8000m2の楕円形広場はローマのカンピドリオ広場を模した。なぜ国家プロジェクトの中核施設を、西洋の建築様式でデザインするのか、論争を巻き起こした。建物は立方体のような箱を組み合わせた形をしている。建築史家の藤森照信氏は、「立方体こそ磯崎さん独特のプロポーション感覚だ」と指摘する。1984年にBCS賞と毎日芸術賞を受賞。2022年11月に第1期改修工事が始まった。