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既存建築物のBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)モデルを、点群データなどを基に作成し、維持・修繕に役立てる取り組みが徐々に始まっている。課題はモデル作成に要する手間をどこまで削減できるかだ。

 賃貸住宅では、賃借人が入れ替わるたびに住戸内を修繕する。オーナーに修繕を頼まれたリフォーム会社は、その都度現場を調査して必要な図書を一から作成し、見積書をつくるのが慣習だ。図面データのない中古住宅を売買する際も、同じような手間がかかっている。

 住戸のBIMモデルを簡単につくれる新技術を開発し、こうした業務を合理化できないか──。スターツアセットマネジメント、スターツCAM、LIFULL、一橋大学の清水千弘教授から成るチームの提案が、国土交通省の「令和4年度住宅生産技術イノベーション促進事業」に採択され、2023年1月に開発をほぼ終えた。

 スターツアセットマネジメントの平出和也社長は「賃貸住宅や中古住宅の維持・修繕はアナログ管理が一般的で、担当者が慢性的に長時間残業をしている。現地調査で拾った数量にばらつきがあることも課題だった。こうした課題の解決に、BIMが役立つと考えた」と話す。

 BIMモデルは次の手順で作成する。まず、スマートフォンに搭載されたLiDAR(ライダー)(レーザーレーダー)機能で住戸内を計測し、ホワイトモデルと呼ぶ間取り図を自動で生成〔写真1〕。次に、ホワイトモデルのデータをクラウド上にアップロードして、簡易BIMモデルを自動で構築する〔図1〕。

〔写真1〕スマホのLiDAR機能で現場調査
〔写真1〕スマホのLiDAR機能で現場調査
スマートフォンのLiDAR機能を使い、住戸内を計測する様子。右側は、計測と同時に作成される3次元の間取り図(ホワイトモデル)。米アップルがiOS向けに提供する「RoomPlan API」を利用して独自開発したソフトで作成している(写真・資料:スターツアセットマネジメント)
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〔図1〕ソフトでゆがみを自動補正
〔図1〕ソフトでゆがみを自動補正
独自開発のソフトで作成した簡易BIMモデル(資料:スターツアセットマネジメント)
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ホワイトモデルのデータをソフトに読み込んだ状態。この段階ではゆがみがあるが、自動補正できる(資料:スターツアセットマネジメント)
ホワイトモデルのデータをソフトに読み込んだ状態。この段階ではゆがみがあるが、自動補正できる(資料:スターツアセットマネジメント)
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 そして、簡易BIMモデルから修繕や維持管理に必要な属性情報を抽出し、見積書の作成や履歴管理に役立てる。LiDARによる間取り図作成、簡易BIMモデル作成、修繕提案、維持管理までを一気通貫でカバーした独自システムだ。「Re:BIM」と名付けている。

 作業時間は延べ面積60~70m2程度の住戸で約30分。内訳は、住戸内の計測作業、簡易BIMモデル作成、見積書作成がそれぞれ約10分だ。従来のアナログ作業だと1~2週間は要していたので、かなり時間短縮になる。

 課題の1つは、ホワイトモデルから簡易BIMモデルを作成する際の自動化率の向上。梁の作成や室名の入力など、手作業がいくつかある。開発チームは23年3月から現場に導入し、改良も並行して進める。8月ごろから不動産仲介会社やリフォーム会社などに販売する予定だ。