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空き家を再生しようにも、数が多すぎる。そんな中、京都の集落に移住した設計者が自ら、複数の空き家を段階的に購入・改修して暮らしている事例がある。1軒だけの“点”から、数軒連なる“面”へと再生を広げる。

 人口減少などを背景に増え続ける空き家に、設計者はどう働きかけられるか。京都市左京区静市静原町の空き家再生事例にヒントがある。

 市北部の山あいに位置する静原へは、京都駅から地下鉄やバスを乗り継ぎ、約1時間でたどり着く。市街化調整区域のその集落には、昔ながらの日本家屋が立ち並ぶ。ここに、大正・昭和時代に建てられた2軒の空き家と元車庫を再生した「静原村の家」がある〔写真1〕。それぞれ住宅や設計事務所、服飾工房といった用途で活用されている。

〔写真1〕京都市の奥地に残る集落に移り住む
〔写真1〕京都市の奥地に残る集落に移り住む
空き家を改修した「静原村の家」を上空から撮影した。印の付いている4棟だ(写真:車田 保)
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上から197番地、204番地、203番地の建物外観。197番地と203番地では住宅を改修、204番地では車庫を事務所に改修した。207番地の住宅は未改修。2月中旬に訪れると、大粒の雪が降っていた(写真:車田 保)
上から197番地、204番地、203番地の建物外観。197番地と203番地では住宅を改修、204番地では車庫を事務所に改修した。207番地の住宅は未改修。2月中旬に訪れると、大粒の雪が降っていた(写真:車田 保)
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 自ら購入し、改修を施して、住んでいるのが森田一弥建築設計事務所の森田一弥氏だ。古民家の改修や新築住宅などの設計に加え、左官や大学教員もなりわいとする。

 森田氏は先に改修した3棟に加え、それらの東側にある静市静原町207番地の空き家を2022年4月に約900万円で購入。23年4月から改修し、民泊を始める考えだ。集落を訪れた人から「集落に泊まれる場所が無い」と聞いたことがきっかけだった。

 森田氏は銀行から資金を借りるだけでなく、ファンドを運営している『エンジョイワークス』や、ホステル『UNKNOWN KYOTO(アンノウンキョウト)』の運営者に出資やノウハウ提供をしてもらいながら運営する考えだ。10年程度で207番地の住宅の投資回収を見込む。古民家宿泊事業を展開するため、経済産業省の「事業再構築補助金」も申請し、採択された。